和音のそよぎ、鐘のように鳴り響く色調、蜜蜂みつばちの羽音に似た和声ハーモニー、恋せるくちびるのように微笑ほほえ旋律メロディー。また、風景の幻影、人の面影、熱情、霊魂、性格、文学的観念、形而上学的けいじじょうがくてき観念。
しかし彼らの立っていた地盤は今の自然科学のそれとはむしろ対蹠的たいせきてきに反対なものであったように見える。形而上学的けいじじょうがくてきの骨格に自然科学の肉を着けたものという批評を免れることはむつかしい。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)