ではさっきから何処どこにもぐっていたのかと不審ふしんになり、それとなくたずねようとした刹那せつな、ぼくは彼の懐中かいちゅうにねじこまれている本が前田河広一郎まいだこうひろいちろうの≪三等船客≫なのを見て、ハッとして
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)