おまえ)” の例文
きかぬ気の爺さんで、死ぬるまでおまえに世話はかけぬと婆さんに云い云いしたが、果して何人の介抱かいほうも待たず立派に一人で往生した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「長く食を得ぬときに空腹を覚えるものがおまえじゃ。冬になって寒さを感ずるものが儞じゃ。」さて、それで厚いくちびるを閉じ、しばらく悟浄ごじょうのほうを見ていたが、やがて眼を閉じた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「見えない。それはおまえの気の迷いだ」と言うと、かれは信じがたげな眼で、一同を見返し、さて、それから、なぜ自分はこうみんなと違うんだろうといったふうな悲しげな表情に沈むのである。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)