不拘かかはらず)” の例文
日下部君は、朝に四合、晩に四合飲まなくては仕事が出来ぬといふ大酒家で、成程先刻さつきから大分傾けてるに不拘かかはらず、少しも酔つた風が見えなかつたが
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は重大な使命を帯ぶに及んでそれが結婚を急がせるの口実となつて(兄の乱心中にも不拘かかはらず)いよいよ彼が大陸へ旅立つといふその前日に式が挙行される運びになつた。
彼には父もあり母もある、また家もある。にも不拘かかはらず、常に此新山堂下の白狐龕びやつこがんを無賃の宿として居るといふ事も亦、自分の聞き知つて居た処である。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
にも不拘かかはらず、此三人の人は、怎したものか、何か事のある毎に、「毎日」の行動に就いて少からず神経過敏な態度を見せて、或時の如きは、須藤氏が主として関係して居る漁業団体に
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは、随分手酷い反抗のあつたに不拘かかはらず、飄然として風の如く此職員室に立ち現れた人物が、五尺二寸と相場の決つた平凡人でなくて、実に優秀なる異彩を放つ所の奇男子であるといふ事だ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今日自分が偶然に路上で出会した一事件——自分と何等の関係もないに不拘かかはらず、自分の全思想を根底から揺崩ゆりくづした一事件——乃ち以下に書き記す一記事を、永く/\忘れざらむためであつたのだ。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)