白粉気おしろいけ)” の例文
旧字:白粉氣
びんのほつれ毛が顔へ懸りまして、少し微酔ほろえい白粉気おしろいけのあるところへぽッと桜色になりましたのは、べっして美しいものでございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四十格好の克明こくめいらしい内儀かみさんがわが事のように金盥かなだらいに水を移して持って来てくれた。葉子はそれで白粉気おしろいけのない顔を思う存分に冷やした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
出戻りには相違ありませんが、白粉気おしろいけさえ嫌ったお品は、美しくなければならぬ囮などを買って出るような、たしなみのない女ではなかったのです。
まだ商売をしている時分から色気のないくらい白粉気おしろいけの少い女であったが、めてから一層身装振なりふりなど構わぬと思われて、あたら、つくれば
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
蝶子は白粉気おしろいけもなく、髪もバサバサで、着物はくたびれていた。そんなところを同情しての言葉だったかも知らぬが、蝶子は本真ほんまのことと思いたかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
しかし白粉気おしろいけのない顔の表情はどこかそこらの高等女学校生徒などと比べては年の割にふけて見えるのである。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
綸子りんずの頭巾、しゃの衣、象牙のような手くびにかけた水晶の数珠じゅず白粉気おしろいけのない姿にも、露をたたえた白蓮の香があって、尼僧にしては余りにえんで余りに美し過ぎる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あっさりと水色の手柄——そうした感じの、細っそりとした女は細君の屋寿子やすこで、そのうしろは、切髪の、黄昏たそがれの色にまがう軽羅うすものを着てたたずんだ、白粉気おしろいけのない寂しげな女。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
洗髪あらいがみ潰島田つぶししまだ、ばっさりしてややほつれたのに横櫛よこぐしで、金脚きんあし五分珠ごぶだまかんざしをわずかに見ゆるまで挿込んだ、目の涼しい、眉の間にくもりのない、年紀としはまだ若いのに、白粉気おしろいけなしの口紅ばかり
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白粉気おしろいけのない邦子が不安さうにいた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
お篠はそう言って、自分の両手を後ろに廻し、平次の方へ膝行いざり寄るのです。白粉気おしろいけのない顔は青ざめ、まぶたあふれる涙が、豊かな頬を濡らして襟に落ちるのでした。
妊娠しているのだと聞かされ、豹一ははっとした。友子は白粉気おしろいけもなくて蒼い皮膚を痛々しく見せていた。豹一は友子と結婚した。家の近くに二階借りして、友子と暮した。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
色くっきりと白くして豊頬しもぶくれの愛敬のある、少しも白粉気おしろいけの無い実に透通すきとおる様な、是が本当の美人と申すので、此の娘が今襷掛たすきがけで働いて居ります、あんまり美しいから人が立停って見て居る様子。
すると本町ほんちょうの辻で、はたと、目のさめるような美しい娘に出会った。白粉気おしろいけはないが、りんとして、しかもなよやかで、文筥ふばこを胸に抱いている姿のどこかに初々ういういしさもあって、気品のある武家娘だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とある杉垣の内をのぞけば立ち並ぶ墓碑こけ黒き中にまだ生々しき土饅頭どまんじゅう一つ、その前にぬかずきて合掌せるは二十前後の女三人とおさなき女の子一人、いずれも身なりいやしからぬに白粉気おしろいけなき耳の根色白し。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)