焼夷弾しょういだん)” の例文
移転して三月目にその家が焼夷弾しょういだんで丸焼けになったので、まちはずれの新柳町の或る家へ一時立ち退き、それからどうせ死ぬなら故郷で
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
焼夷弾しょういだんの消し方」「空の体当り」「ジャガ芋の作り方」「一機も生きて返すまじ」「節電と飛行機」不思議な情熱であった。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あのあおい眼玉をした赤鬼たちが、吾等の愛すべき家族をねらって爆弾を投じ、焼夷弾しょういだんで灼きひろげ、毒瓦斯どくガス呼吸いきの根を停めようとするのだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここで幾度か出征兵士の壮行会が催され、英魂が迎えられ、焼夷弾しょういだんの処置が練習され、防火の訓練が行なわれた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
千箇の焼夷弾しょういだんの中で路面や広場に落ちたり河に落ちたりして無効になるものが仮りに半分だとすると五百箇所に火災が起る。これは勿論水をかけても消されない火である。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
模擬焼夷弾しょういだんが炸裂し、発煙筒の黄色い煙があたりに立ちこめ、警防団のポンプが出動し、メガホンでわめく人声、バケツを手にして右往左往する男女の黒影、真実ほんとうの火事場のような騒ぎである。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは焼夷弾しょういだん攻撃に対して鉄壁の陣をいたというのであろうか。……望遠鏡のおもてに、ふと橋梁きょうりょうが現れる。豆粒ほどの人間の群が今も忙しげに動きまわっている。たしか兵隊にちがいない。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
その五階の建物も、三階までは罹災りさいしました。後でその構内へ落された焼夷弾しょういだんを拾い集めたら、幾百とあったそうで、その殻が小山のように積んでありました。落ちた折の恐ろしさが想像せられます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その前夜、東京に夜間の焼夷弾しょういだんの大空襲があって、丸山君は、忠臣蔵の討入うちいりのような、ものものしい刺子さしこの火事場装束で、私を誘いにやって来た。
酒の追憶 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私の家の前後左右の隣へ各々五十キロの焼夷弾しょういだんが落ちたのをバクハツ直後の猛火の中へ水をかぶってとびこんで前後左右に火をたたきつけ、まったく物凄い。
破甲弾はこうだんはどことどことに落とすつもりか。焼夷弾しょういだんはどの位もって来て、どの辺の地区にげおとすのであろうか。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
千個の焼夷弾しょういだんの中で路面や広場に落ちたり川に落ちたりして無効になるものがかりに半分だとすると五百か所に火災が起こる。これはもちろん水をかけても消されない火である。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「敵の計画では、焼夷弾しょういだん毒瓦斯弾どくガスだんとで一気に、帝都を撲滅ぼくめつするつもりだったらしいですな。爆弾は、割にすくない。弾痕だんこんと被害程度とを比較して、判ります」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は爆弾や焼夷弾しょういだんおののきながら、狂暴な破壊にはげしく亢奮こうふんしていたが、それにも拘らず、このときほど人間を愛しなつかしんでいた時はないような思いがする。
堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
青森市に対して焼夷弾しょういだん攻撃が行われたようで、汽車が北方に進行するにつれて、そこもやられた、ここもやられたといううわさが耳にはいり、ことに青森地方は、ひどい被害のようで
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
焼夷弾しょういだん投下のためにけがをする人は何万人に一人ぐらいなものであろう。老若のほかの市民は逃げたり隠れたりしてはいけないのである。空中襲撃の防御は軍人だけではもう間に合わない。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あまりにもかわりはてた無残むざんな銀座。じつは、昨夜この銀座は焼夷弾しょういだんの雨をうけて、たちまち紅蓮ぐれんほのおでひとなめになめられてしまって、この有様であった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
甲府こうふ市の妻の実家に移転したが、この家が、こんどは焼夷弾しょういだんでまるやけになったので、私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、津軽つがるの私の生れた家に行かざるを得なくなった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
もう空襲警報くうしゅうけいほうもなりひびかないのだ。焼夷弾しょういだんや、爆弾の間をぬって逃げまわることもなくなったのだ。今は苦しいが、日一日と楽しさがかえってくるにちがいない。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
焼夷弾しょういだんを落しはじめたら、女房は小さい子を背負い、そうして上の女の子はもう五つだし、ひとりでどんどん歩けるのだから、女房はこれの手をひいて三人は、とにかく町はずれの田圃たんぼへ逃げる。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「うれしいね。焼夷弾しょういだんにおわれて、こんな美しい草花のあることなんかすっかり忘れていたよ。一鉢買っていこう。うちの女房や子供に見せてよろこばしてやるんだ」
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なアんだい。本物の爆弾か焼夷弾しょういだんかと思えば、これァおどかしにもならねえ花火仕掛……。いずれ村の奴の悪戯いたずらだろう。博士せんせいえらいことも知らねえで、飛んだ野郎どもだ」
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
爆弾にもいろいろあるが一トンの破甲弾はこうだんなら、十階の鉄筋コンクリートのビルディングも、屋上から一階まで抜けてメチャメチャになる。しかし敵機の持ってくるのは大部分が焼夷弾しょういだんであろう。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「じゃあ、ガソリンではなく、もっと強く燃えるものがあって、それが、骨まで焼いてしまったのじゃありませんかね。たとえば、焼夷弾しょういだんみたいなものが、自動車に積んであったと考えてはどうです」
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「すると焼夷弾しょういだんが上から降ってくるのかな」
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
焼夷弾しょういだんが落ちたらしい。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)