いい)” の例文
中臣・藤原の遠つ祖あめの押雲根命おしくもね。遠い昔の日のみ子さまのおしの、いいと、みを作る御料の水を、大和国中残るくまなく捜しもとめました。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「しなてる片岡山に、いいこやせる、その旅人たびとあはれ。親なしになれなりけめや、さすたけの君はやなき、飯に飢て臥せる、その旅人あはれ」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
しいの葉にいいを盛ると言った昔の人の旅情は彼らの忘れ得ぬ歌であり、路傍に立つ古い道祖神どうそじんは子供の時分から彼らに旅人愛護の精神をささやいている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高倉は干しいいを取りだした。「食え——」とうめいた。鋸屋は腕を投げだした。が、指は凍結して動かないのだ。彼はわけの分らぬ声を絞って叫んだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「わすれ申さぬ。いずれは野に暮らす者にとって何の嘘がございましょう。兄上のいいはもとより母上の飯にもお言葉にも、もう、こりこり申している。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
(いかに、今朝の自分の姿が、安心と、満足とにかがやいているかを。なぜ、人々はこうなれないのか)いいを盛った茶碗の中へ思わず微笑んでいたのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼飯ひるめしをカレイというのは枯れたいい、すなわち干飯ほしいを持って歩いたからである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
十人は十人の因果いんがを持つ。あつものりてなますを吹くは、しゅを守って兎を待つと、等しく一様の大律たいりつに支配せらる。白日天にちゅうして万戸に午砲のいいかしぐとき、蹠下しょかの民は褥裏じょくり夜半やはん太平のはかりごと熟す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三昼夜麻畑の中に蟄伏ちっぷくして、一たびその身に会せんため、一りゅういいをだに口にせで、かえりて湿虫のえばとなれる、意中の人の窮苦には、泰山といえども動かでむべき、お通は転倒てんどうしたるなり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すがの根の永き一日ひとひいいもくはず知る人も来ずくらしかねつも
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
稲筵いなむしろありいいの山あり昔今
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いいえて
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「……のどかわいた」つぶやいて、辺りを見まわした。清水が欲しいらしいのであるが、水がないので、あきらめて、またむしゃむしゃとかしわの葉でくるんだいいを食べている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして目白鳥は、欲しそうに、不思議そうに、雀のいいながめていた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家にあればケに盛るいいを草まくら旅にしあればしいの葉に盛る
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「いかがしていいを用意する、飯は野に落ちてはいぬぞ。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いいを握って、味噌など添え、あのわらべに与えて追ん出してやれ。山路の方角を教えてな」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女々めめしいぞ、弟宮おとみやいいを食べながら涙を垂れるとは、何事かよ。女の腐ッたような」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘のお麗が、いいびつを寄せて坐ったので、伝右衛門は、口をつぐんでしまった。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いいかしげましたが」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)