音締ねじめ)” の例文
帯の間からばちを取り出して音締ねじめにかかる、ヒラヒラと撥を扱って音締をして調子を調べる手捌てさばきがまた慣れたものであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長唄ながうたの何か一くさりを弾いてお聴かせになったのでしょう。後でお医者の方たちはお兄様のお話を喜び、お姉え様の長唄を聴いた者は、その音締ねじめに感じ入ったのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
素晴らしい音締ねじめの撥さばきが、若い女の甘いあだっぽいとろけるような唄声と一緒に流れてきた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
されども文三が死だ気になって諸事おるされてで持切ッているに、お政もスコだれの拍子抜けという光景きみで厭味の音締ねじめをするように成ッたから、まず好しと思う間もなく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
前掲ぜんけいの老芸人の話では春琴の三味線を蔭で聞いていると音締ねじめえていて男が弾いているように思えた音色も単に美しいのみではなくて変化に富み時には沈痛ちんつうな深みのある音を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
音締ねじめの悪い三味線の伴奏で、聴くに堪えない卑しい歌を歌っている。丁度日が少し傾いて来たので、幸に障子が締め切ってあって、この放たれた男女の一群ひとむれと顔を合せずに済んだ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
舟では音締ねじめばちの冴え、どこかを流す虚無僧ぼろんじ尺八たけ呂律りょりつも野暮ではない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度二を上げて一撥ひとばち二撥当てた音締ねじめ。但し女にあらず。女にあらずとすればまさしく師匠の千斎せんさいである。わたしは二の糸の上った様子から語っているのは何かと耳を傾けるとも知らず内ではおもむろに
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まして、この近辺は花柳のちまたでもあるのか知らん、お雪ちゃんがうっとりしている間に、三味線の音締ねじめなどが、小さな宮川の小波さざなみを渡っておとずれようというものです。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あくる日から圓朝の家は三たびさまを変えて、今度は花やかな三味線の音締ねじめが絶えず聞かれるようになった。大太鼓、小太鼓、ドラ、つけや拍子木の音も面白可笑しく聞こえてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
笛や太鼓の響きも聞えれば、音締ねじめも響いて来るし、どうかすると、よいよいと合唱の唄が揚る。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
性急せっかちそうに歌っている父橘家圓太郎の高座姿がアリアリと目に見えてきた、いや、下座げざのおたつ婆さんの凜と張りのある三味線の音締ねじめまでをそのときハッキリと次郎吉は耳に聴いた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
覚束ない音締ねじめに今日まで通して来たが、琵琶は最後の思い出に竹生島の明神へ奉納し、わが身は山科の光仙林にしばらく杖をとどめていたが、山科よりは程遠からぬところ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)