部屋住へやずみ)” の例文
こう思った林右衛門は、ひそかに一族のうちを物色した。すると幸い、当時若年寄を勤めている板倉佐渡守さどのかみには、部屋住へやずみの子息が三人ある。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
老公は、懺悔ざんげされた。その昔まだ部屋住へやずみの壮年ごろ、江戸表に在府中、人知れず向島の小梅に囲っておいた愛妾があったということ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れまで私は部屋住へやずみだからほかに出るからと云てとどけねがいらぬ、颯々さっさつ出入でいりしたが、今度は仮初かりそめにも一家の主人であるから願書を出さなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、家を尋ねると、藤堂とうどう伯爵の小さな長屋に親の厄介やっかいとなってる部屋住へやずみで、自分の書斎らしい室さえもなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
伊丹屋駒次郎が部屋住へやずみ時代に、筋の悪い借金や、かたりのような事までして、遊びの金を作ったことを種に、駒次郎を脅迫して、お舟やお袖と手を切らせ
恐怖が事実となってあらわれた。そこここに雨戸を開ける音がしはじめた。おっとり刀で飛び出す者もあった。一家の主人も部屋住へやずみ若侍わかざむらいも、その悲鳴を聞いた者は月の下を駈けつけた。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四六君は麹町こうじまち平川町ひらかわちょうから永田町ながたちょうの裏通へとのぼる処に以前は実に幽邃ゆうすいな崖があったと話された。小波さざなみ先生も四六君も共々ともどもその頃は永田町なる故一六いちろく先生の邸宅にまだ部屋住へやずみの身であったのだ。
……芝口しばぐち結城問屋ゆうきどんやの三男坊で角太郎かくたろうというやつ。……男はいいが、なにしろまだ部屋住へやずみで、小遣いが自由ままにならねえから、せっせと通っては来るものの、千賀春はいいあしらいをいたしません。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其の方は部屋住へやずみの身の上で、兄の代りとはいえども、其の方から致して内庭へ這入るべき奴では無い、しかるをんだ、其の方が家来に申付けて内庭を廻れと申付けたるは心得違いの儀ではないか
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やどりはや五月いつゝきあひなり候と申上げれば徳太郎君きこめし甚だ當惑たうわくていなりしがやゝあつて仰けるは予は知る如き部屋住へやずみ身分みぶん箇樣かやうの事が聞えては將監が手前てまへ面目めんぼくなし予もまた近々きん/\に江戸表へ下り左京太夫殿の家督かとく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「御主君には、何としても、お聞き入れはないのだ。道三様のみかお父上もまた、部屋住へやずみの分際で、おことらが知ったことではないと——」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尤もその頃二葉亭はマダ部屋住へやずみであって、一家の事情は二葉亭の自活または扶養を要求するほど切迫しているとは岡目には見えなかった。く土蔵附きの持家もちいえすまっていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
不審ふしんせらるゝ御樣子ごやうす是は尤も千萬なり御筋目おんすぢめの儀は委敷この伊賀より御聽おんきかせ申べし抑々そも/\天一樣てんいちさま御身分と申せばたう上樣うへさま未だ御弱年ごじやくねんにて紀州表御家老からう加納將監方に御部屋住へやずみにてわたらせ給ひ徳太郎信房のぶふさ君と申上し折柄をりから將監妻が腰元こしもとの澤の井と申女中に御不愍ごふびん掛させられ澤の井殿御胤おんたね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「十兵衛殿とやら、よけいなところへ、出しゃばるものじゃない。おぬしは、まだ部屋住へやずみ同様な——しかも明智入道の懸人かかりゅうどの分際ではないか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師匠ししやう天道和尚のひろひし上弟子でしいたし置れしがまつたくは當將軍家の御部屋住へやずみの内の御落胤らくいんなり此度御還俗遊げんぞくあそばし我々御ともにて江戸おもてへ御のぼり遊ばすなり御親子しんし對顏たいがんの上は御三家同樣の御大名にならせらるゝは必定ひつぢやうなり夫に付ては差向さしむき金子御入用なるが只今御用金とし金百兩差上る者にはすなはち三百石の御高おんたか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小野寺十内の姉がとついだ先の大高家おおたかけに生れ、生家は兄の源吾げんごがつぎ、次男の彼は、叔父にあたる十内の養子となって、まだ部屋住へやずみの身であった。
まだ部屋住へやずみではあるが、藩の向背こうはいに依って、殉死にも、籠城にも、加わらせる考えでいると云ったので、喜兵衛はもう我意がいを張るわけにゆかなかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一ツ橋の部屋住へやずみどもだな。こういう、次三男坊が多いから、江戸もくさる。酒もいいが、俺みたいに飲め。一升や二升のんでも、まだ、これくらいな性根はある」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「二十七にもなって、女が、しゅうないなどと云っても、わしは、うなずかん。持て、持て、八十三郎も後口あとくちにひかえているに、貴様が、いつまで、部屋住へやずみでは困る」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)