えつ)” の例文
宣城せんじょう郡、当塗とうとの民に劉成りゅうせい李暉りきの二人があった。かれらは大きい船に魚やかにのたぐいを積んで、えつの地方へ売りに出ていた。
の客を送って、すぐにえつの船の入港日を税関の前の掲示板で見ながら、よく戦った白粉の女たちは、裾寒げに、ぞろぞろと、自分の巣へかえってゆくのだった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えつのう、百万石の威勢にかけて、冬、お国もとで雪を凍らせ、道中金に糸目をつけずにこれを江戸ご本邸に運ばせて、本郷のこのお屋敷内の雪室深くへ夏までたくわえ
休屋やすみややまに一かつそびえて巌山いはやま鎮座ちんざする十和田わだ神社じんじやまうで、裏岨うらそばになほかさなかさなけはしいいは爪立つまだつてのぼつたときなどは……同行どうかうした画工ゑかきさんが、しんやりも、えつつるぎも、これ延長えんちやうしたものだとおも
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「死んだ家内と下女のおえつでございます」
えつの王はそれを聞いて、寄をへいして夫人とした。その父は将楽県の県令に挙げられ、母や姉たちにも褒美を賜わった。
えつと、あだかたきとが、こうして一つのかまの飯を食う、食うのが、間違っているか、宿命なのか。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔、人と水と戦って、この里の滅びようとした時、えつ大徳泰澄だいとくたいちょう行力ぎょうりきで、竜神をその夜叉ヶ池に封込ふうじこんだ。竜神の言うには、人のおぼれ、地の沈むを救うために、自由を奪わるるは、是非に及ばん。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えつと、二つの雄藩が、かなたの国では、両々を争ッて、併呑へいどんをうかがい合い、トモニ天ヲイタダカズ、とまで争っていた。呉人越人、同邦ながらたがいに憎しみあっていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
処へ、名にし負う道学者と来て、天下この位信用すべき媒妁人なこうどは少いから、えつも隔てなく口を利いてうままとめる。従うて諸家の閨門けいもんに出入すること頻繁にして時々厭らしい! と云う風説うわさを聞く。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)