襁褓おしめ)” の例文
婦人はやがて烈しき産痛の後に分娩すれば、生児せいじに乳をませる。小便をさせる。始終汚れた襁褓おしめを取り換えてやらなければならぬ。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
又は赤児の襁褓おしめや下駄傘、台所の流しなぞを、気のちがつたやうな凄じい勢ひで、洗つたり干したりして、大声に話して居る罵つてゐる。
根津遊草 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
殊に庭の襁褓おしめが主人の人格を七分方下げるように思ったが、求むる所があって来たのだから、質樸な風をして、たれも言うような世辞をぜて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして、嬰児にさしてあった襁褓おしめが庭の梅の木の枝にかかっていたと云って、嬰児は鷲に掴まれたと云うことになった。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
われはこれ、魏王の命をうけて、汝の父の首を取りにきた者で、汝のようなまだ襁褓おしめのにおいがするような疥癩かいらいの小児を、くびきりに来たのではない。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(念の為言つておくが、学校教員といふものは自宅うちでは玄関番をしたり、子供の襁褓おしめを洗つたりするものなのだ。)
銀子は襁褓おしめを見て、少しうんざりするのだったが、この小さい人たちだけは、一人も芸者にしたくないと思った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
腰にはユラユラブカブカする、今なら襁褓おしめ干しにつかうような格好のものを入れて洋服を着ていた時代である。
赤とんぼのスイスイと飛ぶ河岸縁かしつぷちを、襁褓おしめ臭い裏通りを、足早に深川へと廻りながら、平次の話は續くのです。
その襁褓おしめを栄一と内山は毎日交代で朝早く吾妻通四丁目と三丁目の大溝まで洗ひに行つた。そのお襁褓を洗ふ度に栄一は色々と宗教的訓練のことに就いて考へた。
西洋人の口は玉葱臭く日本人の口は沢庵臭し。善良なる家庭は襁褓おしめくさく不良なる家庭は乾魚ひもの臭し。雲脂ふけくさきは書生部屋にして安煙草のやに臭きは区役所と警察署なり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
インクナブラとは、襁褓おしめ、むつきの意味だそうで、つまり赤ん坊時代、たれ流し時代の書物を指すと思えば間違いない。平たく云えば「おしめ本」とでも訳す可きだろう。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
マンは、かたわらで、赤ン坊の襁褓おしめをこしらえていたが、これも疲れたように、手を休めた。浴衣ゆかたや襦袢の着くずしを、オシメに縫いなおしたのが、五六枚、重ねてある。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
既に久しく学校の宿直室を自分等の家として居るので、村費で雇はれた小使が襁褓おしめの洗濯まで其職務中に加へられ、牝鶏ひんけい常に暁を報ずるといふ内情は、自分もよく知つて居る。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
家から五丁程西に当つて、品川堀と云ふ小さな流水ながれがある。玉川上水の分流わかれで、品川方面の灌漑専用くわんがいせんようの水だが、附近あたりの村人は朝々あさ/\かほも洗へば、襁褓おしめの洗濯もする、肥桶も洗ふ。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
阿母さんは一寸ちよつと振返つて貢さんを見たが、だまつて上を向いて襁褓おしめの濡れたのをのばしてる。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
うちから五丁程西に当って、品川堀と云う小さな流水ながれがある。玉川上水たまがわじょうすいの分派で、品川方面の灌漑専用かんがいせんようの水だが、附近の村人は朝々顔も洗えば、襁褓おしめの洗濯もする、肥桶も洗う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
庭先に襁褓おしめの乾してあるのを見て、主人公は心中、先輩を侮るような気持を起こすのだが、初対面には、とかくこんな意識が働くのではなかろうか。深く咎めだてをする性質のものでもないであろう。
風貌:――太宰治のこと (新字新仮名) / 小山清(著)
こけの生えた鱗葺こけらぶきの屋根、腐った土台、傾いた柱、汚れた板目はめ、干してある襤褸ぼろ襁褓おしめや、並べてある駄菓子や荒物あらものなど、陰鬱いんうつ小家こいえは不規則に限りもなく引きつづいて
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
既に久しく學校の宿直室を自分等の家として居るので、村費で雇はれた小使が襁褓おしめの洗濯まで其職務中に加へられ、牝鷄ひんけい常に曉を報ずるといふ内情は、自分もよく知つて居る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そんな事には頓着なく襁褓おしめや愛国婦人会の話を持出すのと比べて大変な相違である。
通されたのは二階の六畳の書斎であったが、庭を瞰下みおろすと、庭には樹から樹へひもを渡して襁褓おしめが幕のように列べてしてあって、下座敷したざしき赤児あかごのピイピイ泣く声が手に取るように聞える。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
銀子は物干へ出られる窓の硝子窓ガラスまどを半分開けて、廂間ひさしあいからよどんだ空を仰ぎ溜息ためいきいたが、夜店もののアネモネーや、桜草のはちなどがおいてある干場の竿さおに、襁褓おしめがひらひらしているのが目についた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こけの生えた鱗葺こけらぶきの屋根やねくさつた土台、傾いた柱、よごれた板目はめしてある襤褸ぼろ襁褓おしめや、ならべてある駄菓子だぐわし荒物あらものなど、陰鬱いんうつ小家こいへは不規則に限りもなく引きつゞいて
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
長屋中の女房にようぼが長雨に着古したつぎはぎの汚れた襦袢や腰卷や、又は赤兒の襁褓おしめや下駄からかさ、臺所の流しなぞを、氣のちがつたやうなすさまじい勢で、洗つたり干したりして、大聲に話して居る
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)