芋粥いもがゆ)” の例文
「わッははは。軍師が違うわ。うしろ楯におつき遊ばす軍師がお違い申すわ。夜食に芋粥いもがゆでも鱈腹たらふくすすって、せいぜい寝言でもかッしゃい」
五位は五六年前から芋粥いもがゆと云ふ物に、異常な執着を持つてゐる。芋粥とは山の芋を中に切込んで、それを甘葛あまづらの汁で煮た、粥の事を云ふのである。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
子供たちに芋粥いもがゆを食わせることもできないような日があること、そして案外に年が若く、まだ三十六だということなどが、ぼんやりと耳に残った。
ちゃん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お寒いでしょう、雨にぬれて。——かまど部屋で、お袖でも乾かし、粗末ですが、芋粥いもがゆなと召し上がって行ってください」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吊りランプの下で、ぢいといつしよに、あたたかい芋粥いもがゆをいたゞいてゐると、山でなくむじなの声が時々きこえます。
海坊主の話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
見れば子供衆が菓子を食べていなさるが、そんな物は腹の足しにはならいで、歯にさわる。わしがところではさしたる饗応もてなしはせぬが、芋粥いもがゆでも進ぜましょう。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わずかに少量の干うどんとさつまいもとが手に入ったきりであった。たとい焼けないにしても、当分は芋粥いもがゆにして食いのばさねばならぬ。がそれも長くは続かない。そのあとには飢餓きがが来る。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女は一つぼばかりの台所で関西風な芋粥いもがゆをつくりながらこんな事を云った。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
見れば、大きな鍋で芋粥いもがゆをこしらえているらしい。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芋粥いもがゆくれ、おつさん」と、外套は呶鳴つた。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
同時に又そこに一しょにいた或友だちのことを思い出した。彼は彼自身の勉強の外にも「芋粥いもがゆ」と云う僕の短篇の校正刷を読んでくれたりした。………
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
朝を待って、僧房の芋粥いもがゆをすすり、焼飯やきめしかては釘勘の腰につけて、三人はまたあし久保くぼの山村を立ちました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姥竹は不安らしい顔をしながらついて行った。大夫は街道を南へはいった松林の中の草のに四人を留めて、芋粥いもがゆをすすめた。そしてどこからどこへ往く旅かと問うた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
するとそこには頭を丸めた異形の男がいて、まるで餓鬼のように芋粥いもがゆを喰べているのがみえた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
尊氏はそのあとで芋粥いもがゆを三杯も喰べた。出陣には武門しきたりの古式もあるのだが、家族はおらず、時もこんな場合である。頼春の給仕のみで、すぐ粥腹かゆばらよろいを着込む。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は学校を出た年の秋「芋粥いもがゆ」といふ短篇を新小説に発表した。原稿料は一枚四十銭だつた。が、いかに当時にしても、それだけに衣食を求めるのは心細いことに違ひなかつた。
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こんな雨もりだらけな屋根の下で、年じゅう、芋粥いもがゆ稗飯ひえいいばかりをかみつぶし、秋といっても、月見の御宴ぎょえんに伺えるではなし、春が来ても、豊楽殿ほうらくでんのお花見などは、他人のこと。
爾来じらい程なく、鈴木三重吉氏の推薦によって、「芋粥いもがゆ」を「新小説」に発表したが、「新思潮」以外の雑誌に寄稿したのは、むしろ「希望」に掲げられた、「しらみ」をもって始めとするのである。
羅生門の後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
前述の義兄の児の世話も大変だった。一体、母はどうして毎日の家計をやったか。芋粥いもがゆで一食を過ごしたり、ランプの石油も買えない晩もあったりして、子供心にも、極貧さは身に徹していた。
いささこころよきを覚ゆ。床上「澀江抽斎しぶえちうさい」を読む。嘗て小説「芋粥いもがゆ」をさうせし時、「ほとんど全く」なる語を用ひ、久米に笑はれたる記憶あり。今「抽斎」を読めば、鴎外おうぐわい先生もまた「殆ど全く」の語を用ふ。
浄明はその晩、彼を炉ばたに招いて、芋粥いもがゆに一杯の酒を温めてくれた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○僕は新小説の九月号に「芋粥いもがゆ」という小説を書いた。
校正後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「旅のお方。先ほどから、気づいてはおりましたが、女一人、父が戻るまでは、お上げ申すわけには参りませぬが、この雪に、そんな所においでなされては、凍え死にまする。——土間へ這入って、芋粥いもがゆなと召しがりませ」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)