色彩いろ)” の例文
そのくせ窓には真鍮の棒が、無数に厳重に穿めてある。そうして窓のあるその壁にも、双龍珠を争う図が、黄色い色彩いろで描かれてある。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だが奴が級友なかまの間でも色彩いろの使ひ方が上手でね、活きた色彩を出すんだ。何色彩なにいろを使つても習慣コンベンシヨンを破つてるから新しいんだよ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
姉は、ことに小布片きれが好きであった。様様な色彩いろの絹類を大切に持っていた。どうしたはずみだったか、姉の名あての手紙の束を見たことがあった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
然し見詰めると一瞬毎に、目を射る此の烈しい色彩いろの狂ひも眞暗なよるに向つて徐々として薄らぎ消えて行く。私は小菊の話を其れとなく思ひ返へした。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
Kの憧憬あこがれは其処にも此処にもその常子の面影を見、呼吸を感じ、そのやさしい存在を描くことが出来るほどそれほど強く色彩いろづけられてあつたけれども
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
種々いろいろ色彩いろに塗られた銀座通の高い建物の壁には温暖あたたかな日があたっていた。用達の為に歩き廻る途中、時々彼は往来で足を留めて、おせんのことを考えた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小雨ほと/\雲雀ひばりの歌まじり、眼もさむる緑の麦畑に紅帯あかおびの娘が白手拭を冠って静に働いて居るを見ては、歌か句にならぬものか、と色彩いろ故に苦労する。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なるほど、鋳型いがたというものはあるでしょう。それを取っておけば、同じような輪廓りんかくをもち、同じような色彩いろをした像を幾つとなく造ることは出来るでありましょう。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
うつくしき人は、白き襟に、松と桜と、濃淡色彩いろよき裾模様の、黒の着附けであった。輝くばかりのおもに、うらうらとかすめるさまの眉つき——人々は魅しさられた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そういっているところへ、高座の上り口が開いて、眼のまえに華やかな色彩いろが揺れ動いたかと思うと、梅の家の女たちが四、五人、がやがや言って廊下へ降りて来た。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
欧洲戦乱は誰も知つたやうに、其辺そこらぢゆうに成金をこしらへて、成金気質かたぎといふ一種の気風さへ出来たが、その気質かたぎにも東京と大阪とでは、大分だいぶん色彩いろちがふところが面白い。
ときたびに、色彩いろきざんでわすれないのは、武庫川むこがはぎた生瀬なませ停車場ていしやぢやうちかく、むかあがりのこみちに、じり/\としんにほひてて咲揃さきそろつた眞晝まひる芍藥しやくやくと、横雲よこぐも眞黒まつくろに、みねさつくらかつた
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今日の前途の不安心ということもあるが、それよりも今自分の目にぱっと心が引くような色彩いろがない。なにかそれが欲しい。……と言っても、心には取りとまりがないほどの、かすかな欲望だ。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
四阿あづまやのにほひと色彩いろめられて
ピアノ (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
楽隊は進行曲マーチを奏し出す。見物の群集はときを上げる。響きと色彩いろと人の顔とが入り乱れている雑沓ざっとうの間をそろそろと自動車は動き出した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『僕にはそれが無い! 以前にはそれを色彩いろと形に現せると思つてゐたんですが、又、実際幾分づゝ現してゐたんですが、それがモウ出来なくなつた。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あまりに烈しい無數の色彩いろの變轉に、さながら夜と共に消えて了ふ夕燒の雲の光に眼を射られたやう、私の心は唯だ無暗に強烈な色彩の幻影ばかりに滿されて
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
いう間も、多数の足音が四辺に迫って、剣妖けんよう左膳、パッと片肌ぬぐが早いか、側の女物の下着が色彩いろあざやかに、左指にプッツリ! 魔刀乾雲ではないが鯉口押しひろげた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ようやくこういう色彩いろの入ったものを許されました」とお倉は娘の画をお種に指して見せて
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前垂れの友禅ゆうぜんちりめんが、着物より派手な柄だから揃っていると綺麗だった。春の夕暮など、鬼ごっこや、目かくしをすると、せまい新道に花がこぼれたように冴々さえざえした色彩いろが流れた。
「素晴しい色彩いろぢやないか、一体何店どこで掘出して来たんだね。」
あかく燃えるような帯揚などは、畠に出て石塊いしころを運ぶという人の色彩いろではなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
駈足をしてる様ないそがしい人々、さては、濁つた大川を上り下りの川蒸気、川の向岸むかうに立列んだ、強い色彩いろ種々いろいろの建物、などを眺めて、取留とりとめもない、切迫塞せつぱつまつた苦痛くるしみおそはれてゐた事などが
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
浮雲の引幕ひきまくから屈折して落ちて来る薄明うすあかるい光線は黄昏たそがれの如くやわらかいので、まばゆく照り輝く日の光では見る事あじわう事の出来ない物の陰影かげと物の色彩いろまでが、かえって鮮明に見透みとおされるように思われます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
澄みきった、落附いた色彩いろがあたりに漂い流れている。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
色彩いろだと思つたのは、自分の血だつたのか。」
色彩いろなき石も花と見き
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
誰かは色彩いろに迷はざる
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
色彩いろなき石も花と見き
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
誰かは色彩いろに迷はざる
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)