べり)” の例文
私たちは坂を降りて江戸川べりを船河原橋の方へと往った。片側町の家の後はもう焼け落ちて、その火は後の砲兵工廠の火に続いていた。
変災序記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
べりの下駄も、遺書かきおきも、俺のさせた狂言で、うまく国許をずらかってから、彼女あいつは、江戸で女師匠、俺は、持ったがやまい博奕ばくち、酒。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みのるは橋の角の交番で「清月」と云ふ貸席をたづねると、其所から江戸川べりの方へ曲がつて行つた。清月はその通りの右側にあつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
中でも裏山の峰に近い、この寺の墓場の丘の頂に、一樹、えのきの大木がそびえて、そのこずえに掛ける高燈籠が、市街の広場、辻、小路。池、沼のほとり、大川べり
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御町内から江戸川べりの娘達を集めて盆踊りのもよほしがあつたよ。奧方の御望みでな——、踊り子には一人百疋づつの御祝儀が出た上大した御馳走でな——」
冬子は宵からある大川べりの大きな料理屋へ招ばれてまだ帰って来なかったし、富江と市子米子の二人の舞妓は賑やかな遊びの好きな、県会議員で、素封家で
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
うんげんべり畳敷たたみじきで、天井の高い広廊下は、凍った風で寒かった。信祝は、急ぎ足に、一つ角を曲ると
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これも程近い那珂川べりあたりから拾って来たらしい、鼻緒も何もないノッペラボーの古下駄を二つ掛け並べて、右の方には狂歌師、坂元寓と達筆な二川様ふたがわよう、左の方には
春先き、家々の軒端近く繞りめぐつてゐる小川の氷が碎けて、白のさゝべりのやうになつて、兩側を飾つてゐる間を、一日々々と水量がました、流れの音がころつ/\と響いて來る。
山岳美観:02 山岳美観 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
その頃は、江戸川べりの西江戸川町に住んで居ました。琴の師匠の家の部屋を借りて、妻と一緒に暮して居たのです。その日、私は社から帰って来ますと、久し振りで銭湯へ行きました。
たちあな姫 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
用水べりの小川屋の前の畠では、百姓の塵埃じんあいを燃している煙が斜めになびいていた。
『田舎教師』について (新字新仮名) / 田山花袋(著)
池はぎょくもて張りたらんやうに白く湿める水のに、静に魚のぬる聞こえて、瀲灔ちらちらと石燈籠の火の解くるも清々すがすがし。塀を隔てて江戸川べりの花の林樾こずえ一刷ひとはけに淡く、向河岸行く辻占売の声ほのかなり
巣鴨菊 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
谷川べりの一筋道で樹の根につまずき倒れるおかめのたぶさを掴んで引摺り倒し
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒く、青い、ささべりのみ光った、全面の光らぬ波濤
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
酒ぬきの飯をった私は、其処を出て河津川べりに往き、其処の橋を渡って上流かわかみへ往って、田の中の森にある来宮神社くのみやじんじゃへ往ってみた。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし、その十畳ほどなうんげんべりのたたみのには、今はいって来た客とあるじのほか一人の人かげも見えないのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夜中の事で。江戸川べりに植えたのと違って、町の青柳と桜木は、間が離れておりますから、この辺じゃ別に騒ぎはしませんでしたが、ついこの月はじめの事ですよ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私どもが御機嫌伺いに参りましても根府ねぶ川の飛石とびいし伝い、三尺の沓脱くつぬぎは徳山花崗みかげ縮緬ちりめんタタキ、黒縁に綾骨あやぼね障子しょうじ。音もなく開きますれば青々とした三畳敷。五分べり南京更紗なんきんさらさ。引ずり小手ごての砂壁。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人はそんな事を言いながら、江戸川べりを歩いておりました。
江戸川べりに住む小身者のわかい侍は、本郷の親類のもとまで往って、其処で酒を振舞われたので、好い気もちになって帰って来た。
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
うるしと、はくと、砂子すなごと、うんげんべりの畳と、すべてが、庶民階級の家には見馴れないものばかりで、きにおう名木めいぼくのかおりが、豪奢ごうしゃに鼻をむせさせてくるし、飼いうぐいすの啼くねがどこかでしきりとする。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はそんな事を言ひ乍ら、江戸川べりを歩いて居りました。
砲兵工廠の火は、江戸川べりにかけて立ち並んだ人家を包んで燃えていた。私たちはその江戸川縁を左に折れて往った。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
金襴べり御簾みすを下げた大身のお忍船しのびもまま見える。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤枝の声を聞いて集まって来た人びとは、藤枝といっしょになって利根川べりの方へ追って往ったが、女の影はもう見えなかった。一行の足は自然おのずと止ってしまった。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
多摩川たまがわべりになった調布ちょうふの在に、巳之吉みのきちという若い木樵きこりがいた。その巳之吉は、毎日木樵頭さきやま茂作もさくれられて、多摩川の渡船わたしを渡り、二里ばかり離れた森へ仕事に通っていた。
雪女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)