結納ゆいのう)” の例文
しかしいまさらどうもする事が出来ないから、それなりにして、未来の細君にはちょっとしたできあい指環ゆびわを買って結納ゆいのうにしたのです
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
結納ゆいのうかはされし日も宮は富山唯継をつまと定めたる心はつゆ起らざりき。されど、己はつひにその家にくべき身たるを忘れざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すでに結納ゆいのうの品を取りかわし、箪笥たんす、長持から、針箱のたぐいまで取りそろえてお粂を待っていてくれるという先方の厚意に対しても
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と云うようなはなしになって、それでは、帰国した上で、双方の主君の許可ゆるしを得て、改めて、日もきめよう、結納ゆいのうも交そうとなった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
結納ゆいのうは早速取交して式は来年の三四月という先方の意向だが、ガヷナーは五月に入ってから帰るのらしい。すると五月だね」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なにを結納ゆいのうとしてあなたを妻におむかえしたものか、そのあてもないので、いまさらのように自分に財産のないのがくやまれて仕方ありません。
結納ゆいのうならびに華燭かしょくの典の次第に就き電報をもって至急の依頼を受けましたが、ただちに貴門を訪れ御相談申上げたく、ついては御都合よろしき日時
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「しかし、天野氏、貴殿は成田殿御息女とは、すでに御結納ゆいのうが……」と、小泉がいいかけると、新一郎は憤然として
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
高橋氏に話すと快諾してくれましたので、形ばかりの結納ゆいのうを取りかわし、明治八年の十一月七日に、九尺二間の我家で結婚の式をげたのでありました。
結納ゆいのうの目録などが、ある晩浅井へ出入りする物知りの手によって書かれたり、綺麗な結納の包みが、その男の手によって、水引きをかけられたりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すなわち、結納ゆいのうの目録に、昆布を「子生婦」と書し、するめを「寿留女」と書し、柳樽を「家内喜多留」と書するの類は、みな文字によりて祝する縁起なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「親許は上野の山下で、もう結納ゆいのうのとりかわせも済んで、近々のうちにお輿入こしいれがあるそうじゃありませんか」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どちらがわの親類にも異存がなく、七日ほど前に結納ゆいのうをとりかわしたのですが、ところで、大国魂神社の神主かんぬし猿渡平間さわたりひらまの甥で、桜場清六さくらばせいろくという勤番くずれ。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「それは嘘だが、とにかく、倅に日本一の嫁を貰うんだからと嫌がる大黒屋へ人橋けて口説き落し、その代り結納ゆいのうは千両箱が三つ、こいつは空じゃないぜ、親分」
富豪のうえに女がその地方きっての美人であったから、豪家の少年達は争うてがん結納ゆいのうを持ちこんで婿になろうとしたが、どれもこれも女の父親の気にいらなかった。
阿宝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
働き者をとられるとその日から暮しにこまるという理由で五十円の結納ゆいのう金、結婚後は月々十円の扶助ふじょ料という条件をお綱の母親がもちだした。一歩もひこうとしなかった。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
近々結納ゆいのうを取りかわすまでに運ばれて来たので、それを知ったお紋は決して承知しなかった。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
結納ゆいのう取換とりかわされた。婚礼の当日に、五百いおは比良野の家に往って新婦を待ち受けることになった。貞固と五百とが窓のもとに対坐していると、新婦のかごは門内にき入れられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その結果、Aという女は、遂に竹花中尉の方へ傾いてゆき結納ゆいのうまでとりかわされ、この演習が済むと、直ちに水交社すいこうしゃで婚礼が挙げられることにまで、事がきまっていたのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
公子 (立ちたるまま)おお、あの女の父親にった、陸で結納ゆいのうとか云うものの事か。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを聟方に必要があって、是非とも早くつれて行こうという際には、あと二年なり三年なりの間、娘が働いて家に入れるくらいの財物を、結納ゆいのうとともに送ってくるところも北九州の島にはある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
隣町の呉服屋ごふくや衣裳いしょうの見立に参ったり、それを家中うちじゅうの手で裁縫したり、道具類だとか、細々こまごました手まわりの品々を用意したり、その中へ先方からは立派な結納ゆいのうが届く、お友達にはお祝いの言葉やら
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは日本の結納ゆいのうとは違う。もちろん何程いくらという内約も何もない。そこで娘と息子の両親は例のごとく卜筮者うらないしゃあるいは神下かみおろしに聞いて吉日を択んで、いよいよ結婚の礼式を行う準備よういをするのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もしおれが二人にこの間じゅうから結納ゆいのうや贈物——たとえば箪笥たんすだとか、手箱だとか、宝石だとか、反物だとか、全体にそういったような、クノップの店やイギリス商館などで売ってるがらくたに
仮令たとえ浪人者でも、一人の娘を妾にはせん、婚礼の式は正しゅうしなければならん、お前の先生は嫁の貰いようを御存じないか、見合いも致さず、結納ゆいのう取交とりかわさず、媒妁も入れなければ婚姻にはならん
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
双方満足の御様子であったのは欣快きんかいに堪えない、と云い、自分は今夜御牧氏と同道帰京するが、結納ゆいのうその他のことについては、追って井谷嬢を以て連絡申上げるであろう、なお昨夜の広親子ひろちかしの話では
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まもなく結納ゆいのうがすみ、やがて婚礼があった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
前年の冬には南殿村から結納ゆいのうの品々を送って来て、その年の二月の声を聞くころはすでに結婚の日取りを申し合わせるまでに運んだのであった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「今さらいうのも、懺悔ざんげめくが、同藩の市岡へ、とつぐ約束になって、結納ゆいのうまですんでいたあの女を、婚礼の間際まぎわに隠したのは、俺だ、この一角なのだ」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くれる方も貰う方も皆僕が手がけましたから、結納ゆいのううだの式日しきじつなんの日が宜いのと故実こじつに通じてしまって、この方も人が訊きに来ます。妙なものですよ。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それでも文句を言うなら、結納ゆいのうの代りだとか何とか、いい加減な事を言って、これを見せるがいい」
まだ結納ゆいのうの取りかわせも済まないうちに、どれもみな変死を遂げたのである。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「早速の御承諾かたじけなし——然らば、その結納ゆいのうの記念として」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
娘は嬉しがって飯の五六杯位も食べられ、一足飛そくとびに病気も全快致しましょう、善は急げのたとえで、明日みょうにち御番帰ごばんがえりに結納ゆいのうの取りかわせを致しとう存じますから、どうか孝助殿をお供に連れてお出で下さい
えらんで、結納ゆいのうを取りかわして下さい
「何所へ結納ゆいのうをあげましょう」
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
結納ゆいのうの指輪なんです
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どんな染め模様を選んだら、娘にも似合って、すでに結納ゆいのうの品々まで送って来ている南殿村の人たちによろこんでもらえるだろうかなぞの相談も出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もう、結納ゆいのうもすみ、あの家では、初春はるの支度で、花嫁の準備で、友禅ゆうぜん小布こぎれや綿屑わたくずが、庭先に掃き出されてあるのでもそれが分る——と、云うのだった。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
直ぐに結納ゆいのうを取り交して、来年三月挙式ということに決った。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小泉の兄の方から送った結納ゆいのうの印の帯なぞは、未だ一度も締たことが無くて、そっくり新しいまま眼前めのまえに垂下った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もしこの先、おぬしが、ほしいと望む女子があれば、この婆がその女子の家へお百度踏んで通うても——いやわしが生命いのち結納ゆいのうに進上しても、きっと貰うてやりまするがの
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで或日のこと、結納ゆいのうの相談で事後承諾を求められた時
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いろいろ打ち合わせも順調に運び、わざとばかりの結納ゆいのうの品も記念に取りかわしました。もはや期日の打ち合わせをするほどにこの話は進んできています。
再婚について (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
結納ゆいのう、日どり、すらすらと運んで、婚礼は、すず風の立ちめる、秋の九月と決まった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実の机の上には、水引を掛けるばかりにした祝の品だの、奉書にしたためた書付だのが置いてあった。兄は先方へ贈るように用意した結納ゆいのうの印を開けて弟に見せた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
成政の臣、佐々平左衛門は、結納ゆいのうの使者として、富山をたち、金沢の尾山城へ来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その年、嘉永かえい六年の十一月には、半蔵が早い結婚の話も妻籠つまごの本陣あてに結納ゆいのうの品を贈るほど運んだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「急がよいとは、赤橋どのの仰せでもあるらしい。すでに結納ゆいのうなどは、とうにすんでおること。またぞろ、不測な出来事によって、去年のような延々を見ぬうちにというお考えかと思われる」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出して、結納ゆいのう小袖こそでも、織り次第、京都の方へ染めにやると言ってやったくらいですよ。ごらんなさいな、織って、染めて、それから先方へ送り届けるんじゃありませんか。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)