立女形たておやま)” の例文
と、肩幅広く、塘堤どてぶちへあらはれた。立女形たておやまが出たから、心得たのであらう、船頭め、かんてらのを、其の胸のあたりへ突出つきだした。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もとの吉田玉造よしだたまぞうとか桐竹紋十郎きりたけもんじゅうろうとか言ったような老人が上下かみしもけて、立役たちやくとか立女形たておやまとかの人形を使っておったものであるが
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
立女形たておやまの顔が文楽座のはふっくらと円みがあるのに、此処のは普通の京人形やおひな様のそれのように面長おもながで、冷めたい高い鼻をしている。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
立女形たておやまではないけれど、顔と身体の圧倒的な美しさが、特殊の人気を呼んで、一座の女優中でも、二番目ぐらいには羽振はぶりのよい名前になっていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
千石取の旗本某のめかけになり、三轉四轉して、有名な立女形たておやま中村某の家に押掛女房になつたりして居ました。
恥ずかしそうに身をくねらせながら、鬘下地かつらしたぢえんな姿を見せたのは、上方下りの立女形たておやま上村吉三郎でした。
それは座頭の俳優ばかりでなく、中軸なかじくや書出しや立女形たておやまいおりなどの位地に坐っている主なる俳優が皆それであるから、真偽混淆こんこうでずいぶん困らせられたものである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
立女形たておやまが嵐みんし、娘形が寿三郎のせがれ鶴松(後米蔵)で、幹部はたいてい落武者や不平組。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
そんなにお若くて立女形たておやまになられた俳優のお話は昔から一つも伝わっていないこと。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
路考さん、あっしはいつか一度言おうと思っていたんだが、いくら立女形たておやま名代なだいのでも、あんたのやり方は少し阿漕あこぎすぎると思うんだ。薄情もいい浮気もいいが、いい加減にしておかないと、いずれ悪い目を
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けれども又、立女形たておやまの川原までが
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
はじめて、白玉のごとき姿を顕す……一にん立女形たておやま、撫肩しなりとはぎをしめつつつまを取ったさまに、内端うちわ可愛かわいらしい足を運んで出た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
千石取の旗本某のめかけになり、三転四転して、有名な立女形たておやま中村某の家の押掛女房になったりしていました。
このふたりは団十郎菊五郎という格で、殊に藤沢は女形おんながたを勤めるので一座の立女形たておやまとも見られていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
郷にったら郷に従えだと、講釈で聞いたんですが、いかな立女形たておやまでもあの舞台じゃあにらみが利かねえ、それだから飛んだ目に逢うんでさ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せがれの福助は歌舞伎座で立女形たておやまともいうべき地位を占めているにもかかわらず、かれは旅廻りや小芝居廻りの俳優となって、公園の宮戸座や、赤坂の演伎座などへも出勤するようになった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
立女形たておやま、あの花形に、蝶蜂の群衆たかった中には交らないで、ひとり、束髪たばねがみの水際立った、この、かげろうの姿ばかりは、独り寝すると思ったのに——
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは、さもありそうな事で、一座の立女形たておやまたるべき娘さえ、十五十六ではない、二十はたちを三つ四つも越しているのに。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒縮緬の雪女は、さすが一座に立女形たておやまの見識を取ったか、島田の一さえ、端然きちんと済まして口を利こうとしないので、美しいひとはまた青月代に、そういた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
劇中の立女形たておやまふんするものを、路之助として、の意見、相背き、相衝あいついて反する時、「ふん、おれの情婦いろともしらないで。……何、人情がわかるものか。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
檜舞台の立女形たておやま私等わっしらみたような涼み芝居の三下が知己ちかづきッてのもすさまじいんですが、失礼御免で、まあ横ずわりにでもなって、口を利くのには仔細しさいがなくッちゃあなりませんとも。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(泣くな、わい等、)とわめく——君の親方が立女形たておやまで満場水を打ったよう、千百の見物が、目も口も頭も肩も、幅の広いただ一にんの形になって、啜泣すすりなきの声ばかり、誰が持った手巾ハンケチ
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
京町の交番に新任のお巡査まわりさん——もっとも、角海老かどえびとかのお職が命まで打込んで、あがり藤の金紋のついた手車で、楽屋入をさせたという、新派の立女形たておやま、二枚目を兼ねた藤沢浅次郎に
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて壇に登るべき立女形たておやまに対して目触めざわりだ、と逸早く取退とりのけさせ、樹立こだちさしいでて蔭ある水に、例の鷁首げきしゅの船をうかべて、半ば紫の幕を絞ったうちには、鎌倉殿をはじめ、客分として、県の顕官
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
底知れずの水に浮いた御幣ごへいは、やがて壇に登るべき立女形たておやまに対して目触めざわりだ、と逸早いちはや取退とりのけさせ、樹立こだちさしいでてかげある水に、例の鷁首げきしゅの船をうかべて、なかむらさきの幕を絞つたうちには、鎌倉殿をはじめ
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)