窃盗せっとう)” の例文
旧字:竊盜
窃盗せっとう姦淫かんいん詐欺さぎうえてられているのだ。であるから、病院びょういん依然いぜんとして、まち住民じゅうみん健康けんこうには有害ゆうがいで、かつ不徳義ふとくぎなものである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
どうかすると小刀でく。窃盗せっとうをする。詐偽さぎをする。強盗もする。そのくせなかなかよい奴であった。女房にはひどく可哀がられていた。
当時は今日の刑法と異なり、盗みし金の高によりて刑期に長短を付けし時なりければ、彼は単の窃盗せっとうにしてしかも終身刑を受けけるなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いつめた渡り職人、仕事にはなれた土方、都合つごう次第で乞食になったり窃盗せっとうになったり強盗ごうとうになったり追剥おいはぎになったりする手合も折々おりおり来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたしの横町にも二、三回の被害があって、その賊は密行の刑事巡査に捕えられたが、それから間もなく、わたしの家でも窃盗せっとうに見舞われた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一時海道筋から江戸へかけて、悪名をうたわれた窃盗せっとうの名人、それは鼬と異名を取った七助の成れの果てだったのです。
留守の間に何人かが——おそらくは窃盗せっとうの目的で——一度この部屋をうかがい、窓の一部を開けたのである。猫はその時偶然にどこからか這入って来た。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
窃盗せっとう事件は、兎に角現品を所持し、店の番頭達も岩見をみて当人である事を証明したのであるから、遂に起訴せられ禁錮二ヶ月に処せられたのであった。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そのことがどんな人殺しよりも窃盗せっとうよりも恥辱ちじょくだという気持、しかしついにそれをうちあける場面の描写、あれには実に深い心理的恐怖が含まれている。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
男装をして大胆だいたんに強盗を働き廻る女性。良家の令嬢を装って窃盗せっとうをする不良少女。それらのどれにめて見ても、姉の美佐子の行動はまるのだった。
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
窃盗せっとうを捕えると、右のひじから切り落して追放などしたので、悪別当などというあだ名を貰ったこともある。
各国の刑法で之を普通の窃盗せっとうと一律に罰しているか否かは、僕は知らぬが、俗説としては、本盗人は花盗人の一種であるから、寛大に取扱ってやれと云う議論と
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
船渠ドックの構内で、お槙の指環を窃盗せっとうした真犯人が、亀田でなかったことは、黒眼鏡の口から立証された。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窃盗せっとうを、侵入を、すべてを否認し、おのれの名前までも否認し、同一人なることまでも否認している。
不義醜徳を観察するのいいか、みずからこれを行うの謂か、もし後者なりとせば、窃盗せっとうの内秘を描かんとするときは、まず窃盗たり、姦婦かんぷの心術を写さんとするときは
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしそれが度重なれば、ついには窃盗せっとう常習者ともなり、切取強盗の恐るべきものともなります。
晩年磐梨いわなし郡某社の巫女みこのもとに入夫にゅうふの如く入りこみて男子二人を挙げしが後長子ちょうし窃盗せっとう罪にて捕へられ次子もまた不肖の者にて元義の稿本抔こうほんなど散佚さんいつして尋ぬべからずといふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
窃盗せっとう嫌疑けんぎけて、身体検査しんたいけんさまでされ、半裸体はんらたい姿すがたちながら、職務しょくむ忠実ちゅうじつすぎる男の自由じゆうにされる——これがはずかしくないだろうか? しかし、これも経験けいけんなのだ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
世をはばかる監視中の顔をあてて、匍匐はらばいになって見ていた、窃盗せっとう、万引、詐偽さぎもその時二十はたちまでにすうを知らず、ちょうど先月までくらい込んでいた、巣鴨が十たび目だというすごい女
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日では窃盗せっとうでもあるとか、あるいは喧嘩でもしたというと、その犯人としては車夫仲間へ一番に目を付けるという話だが、そんな事もなくなってしまい、一朝天下の大事でも起れば
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかも一番多い犯罪としては、四十四人の放火と、六十八人の窃盗せっとう罪です。
名古屋城外で窃盗せっとうを働いて、たたきの上、領内を追われたのを皮切りとして、捕まってまた敲きの上に追放——その間に同類をこしらえ、ある時は一人、ある時は同類と、諸方を荒し廻っているうちに
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三 これらはけっしていつわりでもママ空でも窃盗せっとうでもない。
富士教団始まって以来の、最初の窃盗せっとうが行われた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今にも窒息ちっそくせんず思いなるを、警官は容赦ようしゃなく窃盗せっとう同様に待遇あしらいつつ、この内に這入はいれとばかり妾を真暗闇まっくらやみの室内に突き入れて、またかんぬきし固めたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
おいらが、馴れない人を、むりに仕事に連れて行って、その日に、あいつらのために、窃盗せっとう冤罪むじつをきてしまった、亀田さんのことだけが、すまないんだ! 悲しイんだ
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし無論むろんかれ自身じしんなんつみもなきこと、また将来しょうらいにおいても殺人さつじん窃盗せっとう放火ほうかなどの犯罪はんざいだんじてせぬとはっているが、またひとりつくづくとこうもおもうたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかるに警察では、該マドレーヌ氏は実はジャン・ヴァルジャンという男であり、一七九六年窃盗せっとうのために処刑された前科者で、かつ監視違反の者であることを発見した。
窃盗せっとう罪と殺人罪とでは、刑罰が非常な違いですからね。と、考えて見ると、あの発砲は非常に不自然です。ね、そうじゃありませんか。僕の疑いはここから出発しているのですよ。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が被告は「不利な態度」を取った。それは事実で、弁護士も「誠実なところ」それを認めざるを得なかった。被告は頑固がんこにすべてを否認した、窃盗せっとうもまた囚人の肩書きをも。
そこで、諸国の城下に、悪い夜遊びが流行はやったり窃盗せっとう沙汰だの強請者ゆすりものが横行している。こんな悪風は、朝鮮役後からの現象で、太閤様が生んだものだとうらんでいる声もあるとか。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺人と窃盗せっとうばかりがあって、殺人者、窃盗者は影も形もないのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いったい何をして捕まって来たのだ。火放ひつけか、窃盗せっとうか、空巣あきすねらいか」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窃盗せっとうをも勝利と心得、ワーテルローを荒らしにやってきたものらしかった。
「じゃ、亀田が窃盗せっとう冤罪えんざいせられた、あの高瀬夫人のくした品物やつか」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一に、その方はピエロンの果樹園の壁を乗り越え枝を折り林檎りんごを盗んだか、否か。言い換えれば、侵入窃盗せっとうの罪を犯したか、否か。第二に、その方は放免囚ジャン・ヴァルジャンであるか、否か。
かれは、掏摸すり窃盗せっとう詐欺さぎなどの小さい吟味や、民事の訴訟事などは、いくら数があっても、余り多忙顔はしなかった。白洲にのぞむ時間は、水のながるるような快断をもって、処理して行った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)