祝儀しゅうぎ)” の例文
この五六日、祝儀しゅうぎを多くやったり写真を撮ってやったりしてつきまとうていた女が応じたので、天風はひどくうれしかった。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お神は裏木戸の瀬川に余分の祝儀しゅうぎをはずみ、棧敷さじきの好いところを都合させて、好い心持そうにり返っているのだったが、銀子もここへ来てから
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こういう時に日ごろ町内から憎まれていたり、祝儀しゅうぎの心附けが少なかったりした家は思わぬ返報しかえしをされるものだった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
乞う折にもその車屋にやるべき祝儀しゅうぎも自身に包んで置かねばならず医者の手を洗うべき金盥かなだらい手拭てぬぐいの用意もあらかじめ女中に命じて置かねばならぬ。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのとき藩主下総守詮芳しもうさのかみあきよしは江戸にいたが、藩主不在のときでも、三日には祝儀しゅうぎのため登城しなければならない。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この両家とも田舎では上流社会に位いするので、祝儀しゅうぎの礼が引きもきらない。村落に取っては都会にける岩崎三井の祝事いわいごとどころではない、大変な騒ぎである。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いうまでもなく、祝儀しゅうぎ酒手さかて多寡たかではなかった。当時とうじ江戸女えどおんな人気にんき一人ひとり背負せおってるような、笠森かさもりおせんをせたうれしさは、駕籠屋仲間かごやなかまほまれでもあろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いやでも顔を合せなければならない祝儀しゅうぎ不祝儀ぶしゅうぎの席を未来に控えている彼らは、事情の許す限り、双方から接近しておく便宜を、平生から認めない訳に行かなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鰹船の祝儀しゅうぎといって、沖で祝儀をつけてやることが出来れば、ことしの鰹は大漁だと縁起をいわう。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ひろはゞ消えなむとにや、これもけしかるわざかな」と随身ずいじんの男に祝儀しゅうぎをおつかわしになったりした院の御様子はどこか江戸の通人つうじんに似たようなふしもあるではないか。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人ふたりを結婚さしておいて、省作を東京へやってもよいが、どうせ一緒にいないのだから、清六の前も遠慮して、家を持ってから東京で祝儀しゅうぎをやるがよかろうということになる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「あの小さい子は、つかれきっていますわ。さあ、みんな楽師がくしたちにやるご祝儀しゅうぎをね」
披露目ひろめをするといってもまさか天婦羅を配って歩くわけには行かず、祝儀しゅうぎ衣裳いしょう、心付けなど大変な物入りで、のみこんで抱主かかえぬしが出してくれるのはいいが、それは前借になるから
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「うむ、水戸はいったいけちなところじゃ、家中かちゅうを廻り歩いてもトンと祝儀しゅうぎが出まい」
「いやいや、そう改ってお祝いを言われても痛みいる。それ、これはお祝儀しゅうぎ。」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
見料けんりょう一回につき金三十円なり。ただしそれ以外の祝儀しゅうぎを出さるるも辞退せず。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のきには、四寸の角材かくざいに、上下に三本ずつ墨黒ぐろと太い線を引いた棒が、うやうやしく立てかけてある。棟上げの縁起えんぎ物だ。まん中に白紙を巻いてしめ繩を張り、祝儀しゅうぎの水引きが結んである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おい! お前はお客を何だと思っているんだ。ご祝儀しゅうぎをやらないぞ。」
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
委しい事はくだくだしいから申しませんがつまり酒を飲む人ならば互いに盃を取かわし下僕しもべらにも相当の祝儀しゅうぎをやらなくてはならぬ。そう言う式を挙げた上でなくては友達ということを許されない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
誰でも祝儀しゅうぎさえ出せば、そいつにさわっていい。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「君、義太夫を語るなら祝儀しゅうぎを出し給え」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
親しき友にも八重との婚儀は改めて披露ひろうせず。祝儀しゅうぎの心配なぞかけまじとてなり。物堅き親戚一同へはわれら両人ふたりが身分をかえりみて無論披露は遠慮致しけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
看板の宣伝かたがた札びらを切って歓を交し、多勢の女中にも余分の祝儀しゅうぎをばらき、お母さんお母さんとあおりたてられて、気をよくしているのであったが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼がひそかに一挺いっちょうの三味線を手に入れようとして主家から給される時々の手あてや使い先でもら祝儀しゅうぎなどを貯金し出したのは十四歳のくれであって翌年の夏ようよう粗末そまつな稽古三味線を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いずれ一座いちざのカピじょうはもう一度おうかがいにつかわしますから、まだご祝儀しゅうぎをいただきませんかたからも、今度はたっぷりいただけますよう、まえもってご用意をねがいたてまつります
実は今夜連れられて行った先で、矢田が気前祝儀しゅうぎを奮発するかどうかを確めて置こうと思っただけである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
箱をもってお座敷へも上がって行き、そのたびに銀子が気を利かし二円、三円、時には五円も祝儀しゅうぎをくれるのだったが、その当座はぺこぺこしていても鼻薬が利かなくなると
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「今日は見物に来たんだからね。お茶代だけでかんべんしてもらうよ。」といって祝儀しゅうぎを出すと、女は
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わずかにその場の空腹をいやすためもう誂えべき料理とてもない処から一同は香物こうのものに茶漬をかき込み、過分の祝儀しゅうぎを置いてほうほうのてい菜飯茶屋なめしぢゃやかどを出たのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
五節句の祝儀しゅうぎはもともと封建時代の遺習で、明治のむかしすでに廃止の布告が出ている。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「縁起だから御祝儀しゅうぎだけつけて下さいね。」と火をつけた一本を差出す。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)