疑惑ぎわく)” の例文
で伊那丸も、さまざまな疑惑ぎわくに胸をつつまれながら、ひとみをそらして、こんどはきっと、入道にゅうどうの顔をにらみつけた。——梅雪ばいせつもまけずに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えたいの知れぬ混沌こんとんを成しており、この上もなく矛盾むじゅんした感情や、想念や、疑惑ぎわくや、希望や、喜びや、なやみが、つむじ風のようにうずまいていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
今まで私をおびやかしたのはただ何とも知れない不安な心もちでございましたが、その後はある疑惑ぎわくが私の頭の中にわだかまって、日夜を問わず私を責めさいなむのでございます。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この奇竜丸の救援におもむいた官憲は、はからずも、この船の構造や、乗組員の様子に疑惑ぎわくを持ち、厳重に取調べた結果、この船こそ怪賊烏啼天駆うていてんくの持ち船だと分り
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
万物の霊長たるしかも女にすぐれたる男子に応用するは、一見男子を侮辱ぶじょくせるかの疑惑ぎわくうながすが、おそらく動物としても優勝なるものの資格を嘆美するために用いた言葉ではあるまいか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし、すぐにクルミさんの頭の中には、ムラムラとひとつの疑惑ぎわくが持上った。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
巌はだまった、かれの頭にはふしぎな疑惑ぎわくが生じた。これがはたしてぼくの父だろうか。わが身の罪を隠蔽いんぺいするために役場を焼こうとした凶悪な昨夜の行為! それがぼくの父だろうか。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かれの心には疑惑ぎわくあらしが吹きはじめた。これまで胸の底ふかくつちかい育てて来た「歎異抄」の魅力みりょくが、それで根こそぎになるというほどではなかったが、その枝葉の動揺はかなりはげしかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そも何者が訴人そにんをしてかくも捕り手のむれをさしむけたのか?——という疑惑ぎわくとふしぎ感だったが、そんな穿鑿せんさくよりも刻下いまは身をもってこの縦横無尽に張り渡された捕縄ほじょうの網を切り破るのが第一
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
領主 暫時しばらく叫喚けうくわんくちぢよ、この疑惑ぎわくあきらかにしてその源流げんりう取調とりしらべん。しかのち、われ卿等おんみら悲歎なげきひきゐて、かたきいのちをも取遣とりつかはさん。づそれまでは悲歎ひたんしのんで、この不祥事ふしゃうじ吟味ぎんみしゅとせい。
平次はこの女の出過ぎた態度に、フト疑惑ぎわくを感じたのです。
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
身をひそめながら、かれの眼はらんらんとその不解ふかい疑惑ぎわくにむかって、きりのごときするどさをぎすましてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかしこの怪事件について、博士はじぶんの上に疑惑ぎわく黒雲こくうんを、呼びよせるようなことをしている」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その代り、重くるしい疑惑ぎわくと、まだ身に覚えたこともない——まるでわたしの中で何ものかが息を引き取ろうとしているような、一種異様なわびしさが、わだかまっていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
報道は一報ごとに不安と疑惑ぎわくを増大せしめるようなものばかりであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
イバンスの最後の一語をきいた少年たちは、疑惑ぎわくを感じた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「あらぬ疑惑ぎわくをもって当家の内秘をのぞかんとする天満のやせ浪人、船出の別宴によいさかなじゃ、重喜がみずから血祭りにしてくりょう! 女中おんなども、誰かある! 佩刀はかせを取れ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭の植込みに隠れていたかもしれない泥坊どろぼう詮議せんぎや、一応は疑われた婆やさんのこと、酒田の物忘れについての疑惑ぎわくなど、いろいろのことが入りくんでややこしくなったのであるが
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おどろきのあまり気が遠くなって、おそろしい疑惑ぎわくに胸をめつけられながら、わたしはもと来た方へ駆け出して、横町を走り抜ける拍子ひょうしに、すんでのことでエレクトリークの手綱をはなすところだったが
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
初めからひそかに咲耶子さくやこすくいだす策略さくりゃくで来たのであるが、とちゅう、馬糧小屋まぐさごやにふしぎなけむりがもれていたため、その疑惑ぎわくにひまどって、ついに、こういう破目はめになったのは
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、それから、この列車の憲兵と車掌も、彼に対し幾分疑惑ぎわくを持っているのだ。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
呉子さんは、柿丘の言葉に、これッぱかりの疑惑ぎわくもさしはさまなかった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
疑惑ぎわくをもって見れば、いくらでも疑わしい点が出てくる。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アンの力というよりも彼の方に、新しい疑惑ぎわくが湧いてきたがゆえだった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
初めて、疑惑ぎわくをもつだけの余裕がでた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)