猶予ゆうよ)” の例文
旧字:猶豫
尤も回答留保ったって、先方がいうんじゃあないんで、こっちが胸をさすって、それまで猶予ゆうよしてやろうという意味あいなんですが。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
基康 わしの前で内輪うちわの争いは、見るにえぬわい。さるこくまでに考えを決められい。猶予ゆうよはなりませぬぞ。(退場。家来つづく)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
最前の深編笠は、たしかに塙郁次郎! もう事件は解決したも同様だ! 一刻も、猶予ゆうよは相成らん、目をつぶって、私情を捨てることだ
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最早もはや一分も猶予ゆうよが出来ぬ仕儀しぎとなったから、やむをえず失敬して両足を前へ存分のして、首を低く押し出してあーあとだいなる欠伸をした。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お絹はわざと、お松に猶予ゆうよと口実を与えないかのように見えました。そうして退引のっぴきさせずにお松を自分の居間へ連れて来てしまいました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半七は猶予ゆうよなく飛び出して、その女中の腕をつかんで座敷へぐいぐいと引き摺り込んだ。女中は二十歳ぐらいで、色白の丸顔の女であった。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
子供を改めるくだりは首を振るだけなり。家に入り源蔵を附け廻りにて、上手に替り、床几にかかる。「しばしの猶予ゆうよと暇取らせ」との白あり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
私は、一秒の猶予ゆうよもなしに、態度をきめた。そのときの私には、深田氏訪問以上の仕合せを考案しているいとまがなかった。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もし危険区域脱出の機会が見えたらば、少しの猶予ゆうよもないようにと、機関室には蒸気が保たれて、出発の用意が整っている。
もう一ときも猶予ゆうよがならず、その晩、念のために、もう一度夫と人形とのおう瀬を確めた上、翌早朝、蔵の二階へ駈上って
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、それが悪意のある相手の手に帰して、こちらを苛責いじめるための道具に使われている以上、相手が書換や猶予ゆうよの相談に応ずべきはずはなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「法水君、問題は、これで綺麗きれいさっぱり割り切れてしまったのだ。もう猶予ゆうよするところはない。算哲の墓𥥔ぼこうを発掘するんだ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一分の猶予ゆうよもゆるされない。この三日の間、七人は三時間ほどの睡眠と、一日二回、各十分の小休止のほか、小休みもなく疾走をつづけて来た。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「お話はよくわかりましたが、拙者の方にも存じよりがござるので、数日の御猶予ゆうよが願いたい、よく勘考のうえ追ってこちらから御返辞をつかまつる」
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は、どんな時どうすればいいかということ——もしも、そいつが苦しみながら生きているなら、猶予ゆうよをしてはならぬ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
途中住民に出逢ったり市街地へはいっても、各自は独逸海軍の名誉に賭けて、掠奪りゃくだつ暴行は一切厳禁である。違反者は猶予ゆうよなく軍律によって処分する。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「まあいつまでもうるさいな。急いで出て行ってくれ。五分間の猶予ゆうよをやる。五分たってわたしが帰って来ても、まだここにいれば承知しょうちしないから」
朝眼さむるや否や一瞬時の猶予ゆうよもなく新聞を取つて読むは毎朝の例なり。『日本』を取りて先づ一ページをざつと見流し直にひろげて二ページを読む。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
初五が短いためにそのあとでちょっとした休止の気味があって内省と玩味がんみの余裕を与え、次に来るものへの予想を発酵させるだけの猶予ゆうよを可能にする。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おそりますが、しばらくご猶予ゆうよねがいます。」といって、大地だいちにすわってふかねんじ、なが瞑目めいもくしていました。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうなっては、もう今は一刻も猶予ゆうよしていられる時でないと、深く決心して彼女は急いで母の居間へやって来た。そして黙ってその端書を母の前へつき出した。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「そうだ。一つ、やってみろ。今から一週間の猶予ゆうよをあたえる。その間、加瀬谷部隊本部附勤務を命ずる」
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
テッキリ義太夫と覚悟したようだったが、早まって叱られては詰まらないから、一応猶予ゆうよを求める為めに
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
惟皇これこうたる上帝じょうてい、宇宙の神聖、この宝香ほうこうを聞いて、ねがわくは降臨を賜え。——猶予ゆうよ未だ決せず、疑う所は神霊にただす。請う、皇愍こうびんを垂れて、すみやかに吉凶を示し給え。」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
階下したでもさすがに二晩や三晩の屋根代ぐらいは猶予ゆうよもするが、食う物は三度三度自分で買わねばならぬ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
単に一部の基督教者キリストきょうしゃの間にとどまって、一日半時はんときとても猶予ゆうよすべからざる国民一般の余儀ない問題にならない、この証拠を目撃して悲しみましょうか喜びましょうか。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いよ/\発令の時には知らしてれることに約束して、帰宅して日々便りをまって居ると、数日の後に至り、今日発令したと報知が来たから、暫時しばし猶予ゆうよは出来ず
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
けれども姫は自分のい出したすがすがしい計画から誘惑ゆうわくされ、身体からだがむずがゆくなって一刻の猶予ゆうよもなく河水にひたらねば居られぬ気持ちにせき立てられるのでした。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
取調べの町人は情けある人とて一夜の猶予ゆうよを与えられ候まま、父に手あつく仕えし上、暁け方眠りにつくを待ちてたまち、返す刀にて自らも冥途めいどの旅に上り候。
主君に申上げて、御驚きの中にも、三日だけ猶予ゆうよを頂きました。せめて三日、死ぬべき命を永らえ、恥を忍んで御墨付の行方を探そうという覚悟を定めたのでございます
恐しいような歓呼かんこがあがって、すぐやんだ。一男が猶予ゆうよなく次の仕事にとりかかったからである。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
こけ猿の茶壺は手になくとも、もはや一刻の猶予ゆうよはならぬと、急遽供をまとめて本郷の道場へ乗りこんできた……あられ小紋のかみしもに、威儀いぎをただした正式の婿入り行列。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
猶予ゆうよもせずに立上り「なるほど、血の文字は此老人が書いたので無い」と言い怪む判事警察官が猶お一言ひとことも発せぬうち又せくゞみて死体しがいの手を取り其左のみ汚れしをげ示すに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかし、私の見るところでは、あなたの遣り口はどうもうまくないようですね。私ならば、もう猶予ゆうよなしに言い出してしまいますがね。こんないい機会は二度とありませんぜ。
突いてひらにあやまっているではないか、済まぬわけだが今しばらくぜひ猶予ゆうよしてもらいたい
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
よくにも得にももうとてもじゃわい。そうして貰いましょうよ。「では証文をな。「うう、承知、承知。ここに恐しき相談一決して、得三は猶予ゆうよなく、お藤の帯に手を懸けぬ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、私は五分間の猶予ゆうよをあたえますから、癲癇の血統があるか無いか考えてみてください
こうなればもう猶予ゆうよはできない。それに十四日は先君せんくんの御命日でもあるから、その日を期して決行しようと、即座に一決して、頭領大石内蔵助からそれぞれ一党に通達つうだつされた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
といいましたところが酒と聞いては少しの猶予ゆうよも出来ぬ人間ですから早速やって来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
けれども、それには何か手柄てがらをしなければいけない。三日の間猶予ゆうよをしてやるから、そのうちによいことをして私の家へ来なさい。そしたら、この二人と仲直りをさしてあげよう。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
おいらは入らぬと言つたけれど抱いてつて買つてくれた、喰べては悪るいかへとさすがに母の心をはかりかね、顔をのぞいて猶予ゆうよするに、ああ年がゆかぬとて何たら訳の分らぬ子ぞ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
にいさんは軟弱かぼそい身体で車を挽いてるから気の毒だと思い、猶予ゆうよをして盆の払いが此の暮まで延々のび/\になって来たのだが、来月はもう押詰おしつまづきではありませんか、私も商売だから貸すもいゝが
その芸題げだいが面白いので、『名人地獄』とこういうのですよ……わっちはそこで猶予ゆうよなく、木戸を潜って覗いたものです。あッとまたそこで驚ろかされました。何んとその筋が大変物なので。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは一刻も猶予ゆうよはならない、院長に気がねなどしている場合でないから、即座に信用ある医師の来診を求めて善処すべきであると思ったけれども、何しろ田舎の年寄たちは気が長いので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
普段から白眼にらんでいる市内外の悪の巣窟ロウクス・ネストへは猶予ゆうよなく警官隊が踏み込んだ。が、この、七月一日の夜中から翌二日、三日とかけて総動員で活躍したその筋の努力は、なんらむくいられなかった。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
寸刻すんこく猶予ゆうよもできなかった。ただちに清麻呂に因果をふくめ、神教偽作のカラクリ全部を一身に負う手筈をきめる。直ちに百川は上奏して、清麻呂はすでに神教偽作の罪状を告白したと告げた。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
メルキオルは、その敬意を嘉納かのうせられる思召おぼしめしが大公爵にあるということを、前から匂わしていた。そこで、得意然たるメルキオルは、一刻も猶予ゆうよなく次のことをしなければならないと宣言した。
しかれども四角四面、慣例格式の走りたる社会を活動せしむる槓杆こうかんを求めば、吾人ごじん猶予ゆうよなく指を賄賂に屈せずんばあらず。かつて藤田東湖が幕府の能吏のうり矢部駿河守との対話をしるしたるを見るに、曰く
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
青眼先生は一寸の猶予ゆうよも無く両親を呼んで紅矢の番をせました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ざんじご猶予ゆうよ