犠牲にえ)” の例文
旧字:犧牲
それからこっち後を引いてか、当歳から若年増、それも揃いも揃って女ばかりがすでに七人もこの神隠しの犠牲にえに上ったのであった。
さあ、八裂やつざきにしろ、俺は辞せん。——牛に乗せて夜叉ヶ池に連れてけ。犠牲にえによって、降らせる雨なら、俺が竜神に談判してやる。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やがて正中ノ変となった。あまた宮方の人々は、斬られ、流され、むざんな犠牲にえとなるを見たが、佐々木道誉の名は出ても来ぬ」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お初の方では、細い、白魚にも似た人さし指を、曳金ひきがねにチカリと掛けて、ちょいと雪之丞に狙いをつけながら、犠牲にえをじゃらす雌豹めひょうのように
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「神のお怒りでござります。神様が何かを怒らせられ飢餓を下されたのでござります。大事な宝を犠牲にえとして、お怒りをなだめずばなりますまい」
されば山の犠牲にえとしてご要求になる人命と申しまするものは、一年にだいたい二百六十個、片足だけお取りあげになったものは千八本、前歯が六百枚、耳が七十三対という有様でございます。
そが犠牲にえに吹きいづるなる。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
祖父江出羽守の猟座かりくら、山伏山の田万里は、こうしてあくなき殿の我慾の犠牲にえに上げられて、一朝にして狐狸こり棲家すみかと化し去ったのだった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
膝を露顕あらわな素足なるに、恐ろしい深山路みやまじの霜を踏んで、あやしき神の犠牲にえく……なぜか畳は辿々たどたどしく、ものあわれに見えたのである。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたりの犠牲にえにみずからを責めて苦しむのはよいことだが、それはそちたちのとがではない。強悪正成一人の罪としておけ……
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「献上箱へ活きた犠牲にえを入れ、殿へ音物としてお送りしましたのも、私が最初かと存ぜられます」
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの、雪をつかねた白いものの、壇の上にひれ伏した、あわれなさまは、月を祭る供物に似て、非ず、旱魃かんばつの鬼一口の犠牲にえである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「清純? ……そんなことばを聞くと、私、怖ろしくなりますわ、いつ、今に、あの伯父が私を黄金の犠牲にえにするか……」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出雲国いずものくに松江まつえの大橋をかけるとき、人柱を立てることになったが、誰もみずからすすんで犠牲にえになろうという者はない。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
漢権守様あやごんのかみさまの行なわせられる、活躰解剖いきみふわけの今夜の犠牲にえに、さあ何物があてられるかのう」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの、雪をつかねた白いものの、壇の上にひれ伏した、あはれなさまは、月を祭る供物くもつに似て、あらず、旱魃かんばつ鬼一口おにひとくち犠牲にえである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
春月を隠した美しい金剛雲の下で、その夜、惜し気もなく犠牲にえに散らされた鮮血が、どこまで、もちの木坂満地まんちの若草をくれないにしたことか? ……。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜にも合図の烽火のろしを上げて神保様の軍兵を引き入れることも方寸にある! いやその前に島君を捉え、硫黄ヶ滝へ引いて行き、右衛門めと押し並べて火薬の犠牲にえにしてくりょう
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、それに犠牲にえをささげて、壁のたたりを納めるこころと、かねては、この御修覆の儀の事なく終わるを祈念されて、あの護摩堂の壁へ、母と子と二人の人柱を塗りこめることになったのじゃ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、旅人があって、さいわいに通るとすると、それは直ちに犠牲にえになる。自分はよくても、身代りを人にさせる道でない。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女の肉体は獣王の犠牲にえにひとたびは供されたが、今は彼女自身のものに立ち返っていた。天然の麗質れいしつは、死んでからよけいにたまのごとくかがやいていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この子を捕らえた仲間達は、戦勝を祈る犠牲にえだと申して、この子を神の拝殿の前で焼き殺そうと致しました、見るに見かねてこの私が命乞いを致したのでございます。私は祭司でござります。
「やめよう。自分から望んでここへ移って来たのだ。若い娘も犠牲にえにするのを承知でわしは就役じゅやくして来たのだ」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
……わしめいは、ただこの村のものばかりではない。一郡六ヶ村、八千の人の生命いのちじゃ、雨乞あまごい犠牲にえにしてな。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしの精力ちから犠牲にえにしていたが、うぬら二人も同じ燈に釣られ、わせられたそうな、ようわせられた! ……竹藪にかけてあるわなにかけて、金地院範覚は生け捕った! 汝を料理した血だらけの手で
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
米ならば五万石、八千人のために、雨乞あまごい犠牲にえになりましょう! 小児こどものうちから知ってもおろうが、絶体絶命のひでりの時には、村第一の美女を取って裸体はだかき……
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さまたげたろう。また、ぶち壊したと仰っしゃるのか。いくら兄者でも聞き捨てならん。これまで戦場の犠牲にえとしてきた多くの白骨に対してもだ。兄者ッ、自分の卑劣を
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犠牲にえには何を捧げような?」
ちかいたがえぬ! 貴下がって、ほか犠牲にえの——巣にかかるまで、このままここで動きはしない、)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……ご落命のやくに会った浮島ヶ原は、戦場ではなかったにせよ、いわばご戦死も同様なこのたびの犠牲にえ。そのことのみが、家臣としても、ふかく胸いたまれてなりませぬ
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜘蛛の犠牲にえ
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
答「北条殿、新田殿、足利殿、そして後醍醐のきみも、正成どのも、犠牲にえであるに変わりはない」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やつとのおもひで此処こゝまでて……一呼吸ひといきくと、あのていだ。老爺おぢいさん、形代かたしろ犠牲にえへて、からくもです、すくしたとばかりよろこんだのは、おうらぢやない、家内かないぢやない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分のために、幾多いくたの兵馬を犠牲にえにし、自分の一命をも陣頭に置いて、闘ってくれているのだ。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小児こども一人犠牲にえにして、毒薬なんぞ装らないでも、坊主になってあやまんねえな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
犠牲にえにされるのかと思うと、庶民はお互いが、大名でなかった事を、むしろひそかに祝福した。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、犠牲にえは代った。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それもこれも、ただ朝家のお為と、たくさんな人命の犠牲にえを惜しむばかりに申したことで、決して、尊氏をおそれ、左中将殿にお恨みがあって、ざんしたわけなどではありませぬ」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両手でおさえたふところの秘冊! 幾多の犠牲にえをかけられてり奪られした阿波の大秘! 宝石のように抱きしめながら、お綱のあとを追って禅定寺の峠路を熱い息で駆けのぼる。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
では、あの評判な及時雨きゅうじうノ宋江でしたか。ならば、身を犠牲にえとする覚悟で焦眉しょうびの危急を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここまで登ってくる途中でも、犠牲にえになった幾人もの斬口てぐちをみたが、汝、あたら天禀てんぴんの才腕をもって、時勢の反抗児となり、幕府の走狗そうくになって、無為に終るのはつまらんではないか」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何百両という金をめるのは一生かかっても難しいことと、一平が悪智慧わるぢえを出して、醤油賭をやるようになってから、お咲も、自分の体を犠牲にえにしてもという気で夜鷹に身を落したが、実は
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我意がいもいわせず、浅井家へとつがせたのは、この信長であった。——国をたもつためには是非もない。わが家の犠牲にえになれといいふくめられて、泣く泣く輿こしにかくれて行ったお市のすがたが……。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「徐兄。——ご辺はこの孔明を、祭の犠牲にえに供えようというおつもりか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るまに、かれと龍太郎の犠牲にえとなる者のかずが知れなかった。そのふたりにまもられながら伊那丸いなまる小太刀こだちをぬいて幾人いくにんった。だが、かれはてきをかけまわしてびせかけることはしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「地勢険悪、自然の力には人も抗し得ませぬ。——また、敵もおめおめと見てはおりませぬ。必然、無数の犠牲にえの者を出して、結果は遂に、不成就ふじょうじゅに終ること火を見るよりも明らかかと思われます」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男の未来を犠牲にえにさせて、この儘、戻ろうなどと考えておいでたのか。さりとは、浅慮あさはかな。……実を云えば、恥しいが、人妻のあなたに、この半蔵は日頃からやる瀬ない思いをこがしていたのでござる。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問「では、何十万の死者も、その犠牲にえというわけですか」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剣風一陣、もう三名が血まつりの犠牲にえとなった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)