波濤なみ)” の例文
其時大鈴の音が響き渡つた。教室々々の戸が開いた。他の組の生徒も教師も一緒になつて、波濤なみのやうに是方こちら押溢おしあふれて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こんな処でイクラ法螺ほらを吹いても、あの波濤なみのスバラシサばっかりは説明が出来ないと思うが、何もかも無い。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤なみにもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。
しかるにその船が南太平洋の波濤なみにもまれているうち、大暴風にでも遭ったものか、それとも海賊に襲われたものか、まったく行方不明になって、南太平洋の波濤はとうは黙して語らず。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
中には活々いき/\青草あをくさえている古いくづれかけた屋根を見える。屋根は恰で波濤なみのやうに高くなツたり低くなツたりして際限さいげんも無く續いてゐた。日光の具合で、處々光ツて、そしてくろくなツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
方様は首尾よく予備門を卒業したまひしかば、これにいよいよ力を得て、これよりは今一際の辛抱にて、我は名誉ある学士の奥様といはれ。母様も、年頃うき世の、波濤なみを凌ぎたまひし甲斐ありて。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
私が出た岡の上は可成眺望ちょうぼうの好いところで、大きな波濤なみのような傾斜の下の方に小諸町の一部が瞰下みおろされる位置にある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ガチャリと電話が切れたと思うと、やがて船腹ふなばら震撼しんかんする波濤なみ轟音おとが急に高まって来た。タッタ二ノットの違いでも波が倍以上大きくなったような気がする。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
往昔むかしから世界せかいだい一の難所なんしよ航海者かうかいしやきもさむからしめた、紅海こうかいめい死海しかいばれたる荒海あらうみ血汐ちしほごと波濤なみうへはしつて、右舷うげん左舷さげんよりながむる海上かいじやうには、此邊このへん空氣くうき不思議ふしぎなる作用さようにて
此の屋根の波濤なみは、大きな東京のふただ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
然し深い風趣おもむきに乏しい——起きたり伏たりして居る波濤なみのやうな山々は、不安と混雑とより外に何の感想かんじをも与へない——それにむかへば唯心が掻乱かきみだされるばかりである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それから三日ばかりした真夜中から、波濤なみの音が急に違って来たので眼がめた。アラスカ沿岸を洗う暖流に乗り込んだのだ……と思ったのでホッとして万年寝床ベッドの中に起上たちあがった。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
機關室きくわんしつはたらことあたはず、詮方無せんかたなきまゝ、つてつ、つ、艦首かんしゆから縹渺へうべうたる太洋たいやう波濤なみながめたり、「ブルワーク」のほとりから縱帆架ガーフひるがへ帝國軍艦旗ていこくぐんかんきあほいでたり、機關砲きくわんほうのぞいてたり
明るい波濤なみ可畏おそろしい音をさせて、二人の眼前めのまえへ来ては砕けた。白い泡を残して引いて行く砂の上の潮は見る間に乾いた。復た押寄せて来た浪に乗って、多勢の船頭ははしけを出した。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)