かも)” の例文
のちに僕の死んでゐるのが、そこで見出されるだらう。長椅子に掛けてある近東製のかもを、流れ出る僕の血がけがさないやうにするつもりだ。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
床のかもが明るんでおり、同じ色をした窓掛けが、そのひだにかげをつけており、高い白堊の天井の、油絵の図案を輝かせている。
怪しの館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
湾内の水は草色くさいろかもを敷き詰めた如く、大小幾百の船は玩具おもちやの様に可愛かはいい。概して鳥瞰的に見る都会や港湾は美でないが、此処ここのは反対に美しい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
次に待ちたる車もまだ寄せぬ間をはかり、槍取りて左右にならびたる熊毛鍪くまげかぶと近衛卒このえそつの前を過ぎ、赤きかもを一筋に敷きたる大理石マーブルきざはしをのぼりぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その上には薔薇の花を隙間なきまで並べたり。この帶の隣には又似寄りたる帶を引きて、その間をば暗紅なる花もて填めたり。これを街のかも小縁さゝへりとす。
第一あなたさへ平戸ひらどあたりの田舎ゐなか生れではありませんか? 硝子ガラス絵の窓だの噴水だの薔薇ばらの花だの、壁にかけるかもだの、——そんな物は見た事もありますまい。
長崎小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いまはたまらず蟋蟀こおろぎのように飛出すと、するすると絹の音、さっ留南奇とめきの香で、ものしずかなる人なれば、せき心にも乱れずに、と白足袋でかもすべって肩を抱いて
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから戸口へ廻る時、実際行潦ぬかるみへ左の足を腓腸ふくらはぎまで蹈み込んだ。靴に一ぱい水が這入つた。女は今かも一枚で覆つてあるベンチのやうな寝台ねだいに腰を掛けて、靴を脱ぎ始めた。
雨あとや虎杖いたどりの芽のくれなゐは踏みてやわらかし斑萌のかも
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そが上に垂れぬるかも紋織あやおり、——
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
かもにおしとね
……姫よ、どうしたのだ、何んとか云いな。何故黙っている、病気なのか? 顔を隠すにも及ぶまい。かもをお取り、その氈を
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
總ての摸樣は、まことに活きたる五色のかもと見るべく、又彩石ムザイコを組み合せたるとこと見るべし。されどポムペイにありといふ床にも、かく美しき色あるはあらじ。
中央なる机には美しきかもを掛けて、上には書物一二巻と写真帖とをならべ、陶瓶たうへいにはこゝに似合はしからぬあたひ高き花束を生けたり。そがかたはらに少女ははぢを帯びて立てり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ぐさかもの上に並んだ積藁わらによからは紫の陽炎かげろふが立つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
女童めわらはは雛祭るとぞ言問ひてあけかもなど部屋に取りに
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今もなほ花文けもんかもをゆすりて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
かもの上へ、尉の装束を皺くちゃにして、左の片足を床へ落とし、毛をむしられた鶏のような、毛穴の立った長い細い首を、イスパニア絹の枕へもたせ
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中央なる机には美しきかもをかけて、上には書物一、二巻と写真帖しゃしんちょうとをならべ、陶瓶とうへいにはここに似合わしからぬあたい高き花束をけたり。そが傍らに少女ははじをおびて立てり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さらせる布の如き溝渠こうきよ、緑なるかもの如き草原の上なる薄ぎぬは、次第にかゝげ去られたり。時はまだ二月末なれど、日はやゝ暑しと覺ゆる程に照りかゞやきぬ。水牛は高草の間に群れり。
まきかも、また紺瑠璃こんるり
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
何んてまあ変わって了ったんだろう? 彼は蒼白まっさおの顔をして(かつてはそれは活々としたピンク色を呈していたではないか。)波斯ペルシャ模様のかもを掛けた長榻ながいすに深く身を埋め
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子供らはいだ海の、青いかもを敷いたようなおもてを見て、物珍しさに胸をおどらせて乗った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その乗りたりし車はまだ動かず、次に待ちたる車もまだ寄せぬ間をはかり、やり取りて左右にならびたる熊毛鍪くまげかぶと近衛卒このえそつの前を過ぎ、赤きかもを一筋に敷きたる大理石の階をのぼりぬ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
(不思議だなあ)と呟きながら、頼母は、少し湿ってはいるが、枯れ草が、かものように軟らかく敷かれている地にたたずみ、(道了様の塚を、何んのために、中庭などへ作ったのであろう?)
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
狭間はざま作りの鉄砲がき! 密貿易の親船だ! 麝香じゃこう、樟脳、剛玉、緑柱石、煙硝、かも、香木、没薬もつやく、更紗、毛革、毒草、劇薬、珊瑚、土耳古トルコ玉、由縁ある宝冠、貿易の品々が積んである! さあ
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女は姫の寝室のかもの掛かった寝台の上に、疲労つかれた体を横仆よこたえていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は書斎の長椅子にころがり、かもにふかふかと包まれながら、とりとめのないことを考えていた。彼女はその日も留守であった。本当に「彼女」というこの言葉は、彼女にうってつけの言葉であった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まあ、そんな、そんな下等な。……よいかもが敷いてございます」
鳰鳥は仰天し急いで寝台に俯伏うつぶせになり、頭からかもを引っかぶった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
燃えついた! 毛皮へ、かもへ!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)