母娘おやこ)” の例文
雪乃母娘おやこは手みやげに持って来た浙江せっこうまんじゅうを、剣持与平から老公へ披露ねがって、やがて惣左とともに、さきへ帰って行った。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ見えていて、狂気だそうだ。娘はまた、生まれつきの馬鹿で、母娘おやこそろってあのありさまとは、なんとも哀れなものじゃのう」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
桑原の一族では、特にみそのの母娘おやこが容貌の点でも評判が悪かつた。新吉は、母と小園を思ひ比べると途方もない憂鬱に襲はれた。
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
別荘には、留守番をする母娘おやこの女中がいた。大月氏の慌しい電話を受けて、最初に深い眠りからさまされたのは母の方のキヨだった。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
自分の家へ無理に母娘おやこを連れて来た綾麿は、いやがる二人を、天狗長兵衛きぎむところの観音像の前に並べて、こう口を切るのでした。
その頃おい、この母娘おやこのように、武士の家庭のものが生計たずきのために職を求め、いろいろおかしい話、気の毒なはなしなど数々ありました。
母娘おやこして笑った。おしょさんのうち軒燈けんとうには山崎やまざきとしてあるが、両国の並び茶屋の名も「山崎」だったと坊さんのおばあさんがいった。
ミミ母娘おやこ美容院では、パーマネント・ウェーブの電流が蜘蛛くもの手のように空中にひらいて小柄なスイス公使夫人の黒い髪に巻きついていた。
スポールティフな娼婦 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
あとじさりに、——いま櫛卷くしまきと、島田しまだ母娘おやこ呼留よびとめながら、おきな行者ぎやうじや擦違すれちがひに、しやんとして、ぎやくもどつてた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
時節柄、外国人の顔はあまり見えず、三階の南側のバルコンのついた部屋に母娘おやこのフランス人がひと組だけ滞在している。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ロシヤ人の母娘おやこ三人、あのおしやべりの母娘三人が、昨夜から姿を消した。宿料が二月分たまつてゐると給仕長の告げ口。
チロルの旅 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
どうやら母娘おやこらしい。その後ろについて、その女の連れらしい一人の男が彼の前を通った。教会から出て来ると、彼はその人たちにお辞儀をした。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
母娘おやこはいっしょに湯につかったり、香りたかい草木の芽をあしらったひなびた午食をたべたりしたのち、まだ珍らしい山独活やまうどをみやげに屋敷へ帰った。
日本婦道記:糸車 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
母娘おやこの高慢ちきなお引きずり』が、法事の席に連なった場合に、二人をぐうの音も出ないようにやっつけて、カチェリーナが非常に素質のいい
けれど、残つてゐるのは果して自分たち母娘おやこだけだらうか。大ちがひだ。現にあの丹塗りの籠のなかには、ああして鸚鵡がとまつてゐるではないか。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私の隣りのテエブルの母娘おやこづれらしい方は、ふたりとも昨日と同じの黒い衣服をつけて、若い女の方は相変らず綺麗に化粧をしていたが、もう一方の
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
老父は彼女が来てからはよく小さい孫と二人づれで出て行つた。家ではさうした間こそ老母と彼女とがいろ/\母娘おやこらしい話をするに都合よい時間だつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
昔或る処に貧乏な母娘おやこがありました、お父様は早くになくなつて今はお母様と娘のお玉と二人きりでしたがなにしろ貧乏なので其日其日そのひそのひの喰べるものもありません
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
母娘おやこは、池ノ端数寄屋町の、ちょうど、造作が入ったばかりの小店を借り受けて、荒物屋をはじめた。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
今上野駅から出て来たらしい東北出と思われる母娘おやこ連れがめいめいに大きなふろしき包みをかかえて、今や車道を横切ろうとしてあたりを見回しているところであった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
母娘おやこかほをみあはせましたが、さびしさうにその何方どちらからもなんともはず、そしてかな/\のうしろ姿すがたがすつかりえなくなると、またせつせと側目わきめもふらずにしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
と、無礼の詞も慾故には、許す母娘おやこがにこにこ顔。おさうさう様といふ声も、いつになき別誂へ。小女までも心得て、直す雪駄のちやらちやらと。揃ひも揃ひし馬鹿者めと。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
父親はマリーの幼いときに世を去り、そのときから、この物語の主題となっている殺害事件の十八カ月ほど前まで、母娘おやこはパヴェ・サン・タンドレ街(原注二)に一緒に住んでいた。
あとに残った子供たちに呼び立てられて、母娘おやこは寂しい影を夜の雨にぼっして去った。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
私は六十八番と云う大きな木札を貰って、女中に母娘おやこ連れの横へ連れられて行った。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
殊にこの朝は、荒涼たる天候の故か、夫人は妙に感傷的な気持ちになっていて、国道まで出ても、娘の手を放したくなかった。固く握り合った儘、母娘おやこは、また一町ほど町の方へ歩いた。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
私はる探偵小説に親子兄弟などと云うものは真向から見て似た分子がないようでも、横顔を見ると共通した所があると書いてあるのを読んで、それ以来電車の中などで母娘おやこらしい二人連や
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ま、はい殘の人さな。俺の阿母おふくろも然うだツたが、家の母娘おやこだツて然うよ。昔は何うの此うのと蟲の好い熱を吹いてゐるうちに、文明の皮を被てゐる田舎者に征服せいふくされて、體も心も腐らして了ふんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私たち母娘おやこの生活を気安くさせていたのでございましょう。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
藻の花や母娘おやこが乗りし沼渡舟ぬまわたし
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
母娘おやこは、顔を見合せた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それをたのみに、かの女は帰ったらしいが、母娘おやこのものを門外まで送りに行った与平が、あとで老公のそばにもどると、そっと告げた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口のきけない者だから、秘密のもれる恐れは断じてなかろう……というので、選ばれてこの母娘おやこの世話をすることになったのだが。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
多勢の野次馬は、このときようやく気がついたように、母娘おやこ二人に手を貸して、死骸をあまり遠くないお楽の茶店にかつぎ込みました。
隣家は津田という小児科の医者、その隣りが舟大工ふなだいく、その隣りが空屋あきやであったが、近頃其所へ越して来た母娘おやこの人があった。
一体その娘の家は、母娘おやこ二人、どっちの乳母か、ばあさんが一人、と母子おやこだけのしもた屋で、しかし立派な住居すまいでした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしは『あの夫人母娘おやこを招待したが、夫人たちは来なかった、だってあの母娘おやこは素性の正しい人たちなので、素性の卑しい女のところへは来られないのだ』
皇太子はお玉母娘おやこを先立てゝやがて此家このうち這入はひりまして眼の前の不思議に感心をしました、左様さうしてこの娘が大きくなつたらば自分のきさきに貰ひたいと望みました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
私達がどんなに仲の悪い母娘おやこであるかと云う事をいくら云って聞かせてみてもこの人達にはそんな事は到底信ぜられないだろう。……そのときふとこういう気が私にされてきた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
むしなかでもばつたはかしこむしでした。このごろは、がな一にちつきのよいばんなどは、そのつきほしのひかりをたよりに夜露よつゆのとつぷりをりる夜闌よふけまで、母娘おやこでせつせとはたつてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
跡に殘つた子供達に呼び立てられて、母娘おやこは淋しい影を夜の雨に沒して去つた。
水害雑録 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
母娘おやこの話は其所で何故なぜかとぎれた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
母娘おやこ喧嘩も、「父」のこと以外ではしたためしはない。どんな仲間の悪党たちでも、お袖がお燕を愛する深さとやさしさには、見る者をして
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの鹿沼新田かぬましんでんの関所で捕まったとき、母娘おやこかということを、あんなに念をいれてきいたのも、さては、母と娘の人柱が必要であったのだ!
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「松永町へ門跡様の裏から越して来た、中気病みの三次郎と、この町内の、しかも路地の外へ上州から出て来なすった、母娘おやこ者のお通さん」
蔵屋のかどの戸がしまつて、山が月ばかり、真蒼まっさおに成つた時、此の鍵屋の母娘おやこが帰つた。例の小女こおんなは其の娘で。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
だいたいあの母娘おやこなんか、わたしの父だったら、台所の料理女にだって雇うことじゃありません。
あら浪の浮き世に取りのこされた母娘おやこふたり。涙にひたることも長くはゆるされなかった。明日からの生計くらしみちが眼のまえにせまっている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
初心うぶな若旦那が、何かにかれたようなものだ。反対にわずか一ト月ほどの間に、水を得た魚とも見えたのはえん母娘おやこである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多勢の彌次馬は、此時やうやく氣がついたやうに、母娘おやこ二人に手を貸して、死骸をあまり遠くないお樂の茶店にかつぎ込みました。