楊貴妃ようきひ)” の例文
白楽天はくらくてんが、玄宗皇帝げんそうこうてい楊貴妃ようきひとの情事を歌った長恨歌ちょうごんかの一節は、そのままわが平安朝の貴族心理をいっているような趣きがある。
ところでその金屏風の絵が、極彩色の狩野かのう何某なにがし在銘で、玄宗皇帝が同じ榻子いすに、楊貴妃ようきひともたれ合って、笛を吹いている処だから余程よっぽど可笑おかしい。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
命婦みょうぶは贈られた物を御前おまえへ並べた。これがからの幻術師が他界の楊貴妃ようきひって得て来た玉のかざしであったらと、帝はかいないこともお思いになった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浮世うきよかゞみといふもののなくば、かほよきもみにくきもらで、ぶんやすんじたるおもひ、九しやくけん楊貴妃ようきひ小町こまちくして、美色びしよくまへだれがけ奧床おくゆかしうてぎぬべし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もとよりやんごとなき都の上﨟じやうらふにてましましければ、和歌管絃かんげんのみちにくらからず、丹花のくちびるふようのまゆたまをあざむくばかりにて、もろこしの楊貴妃ようきひ
しおの流れと主風の方向とに、今昔の変化は無いかどうか、まだ自分には確かめられぬが、ともかくもここ蓬莱ほうらいの仙郷を夢想し、徐福じょふく楊貴妃ようきひを招き迎えようとした程度に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
反魂香はんごんこうに現れ来たる李夫人の幽霊、環形しょくに照らさるる楊貴妃ようきひの幽霊、『牡丹灯記ぼたんとうき』の幽霊のごとき美麗なのもあるが、近世となっては残酷な幽霊多く、『夜譚随録やたんずいろく』にて見るも
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
北斎ほくさいの描いたという楊貴妃ようきひふくが気に入って、父にねだって手に入れた時、それにあう文字を額にほしいと思って、『文選もんぜん』や『卓氏藻林たくしそうりん』や、『白氏文集はくしもんじゅう』から経巻まで引摺ひきずりだして見たが
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
楊国忠ようこくちゅう楊貴妃ようきひちゅうに伏す……と年代記に在る
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さあれ、その艶姿は、海棠かいどうが持ち前の色を燃やし、芙蓉ふようが葉陰にとげを持ったようでなお悩ましい。いってみれば、これや裏店うらだな楊貴妃ようきひともいえようか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄宗げんそう楊貴妃ようきひの七月七日の長生殿の誓いは実現されない空想であったが、五十六億七千万年後の弥勒菩薩みろくぼさつ出現の世までも変わらぬ誓いを源氏はしたのである。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
後宮の佳嬪かひんは十幾人もお持ちだったが、かの玄宗げんそう皇帝における楊貴妃ようきひのように、一身のちょうの誇りは廉子にある。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄宗げんそう皇帝と楊貴妃ようきひの恋を題材にした白楽天の長恨歌ちょうごんかを、亭子院ていしいんが絵にあそばして、伊勢いせ貫之つらゆきに歌をおませになった巻き物で、そのほか日本文学でも、支那しなのでも
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
墓番の若い細君は、同邦人の葬式があるたびに、必ず、楊貴妃ようきひのように盛装して施主に雇われてゆく。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長恨歌は、唐の玄宗皇帝とその寵姫楊貴妃ようきひとの情事を歌った東洋恋愛詩中の代表的なものである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるほど、こうの水はいつのまにか鉛色に見え、そよ風は雨気をささやきはじめて、藤の花の紫は、まさに死なんとする楊貴妃ようきひの袂のように、にわかむせぶようなにおいを散らしておののいている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの白楽天はくらくてんの長詩「長恨歌」の中で、玄宗皇帝が術者の方師ほうしをして、夢に、亡き楊貴妃ようきひの居るところを求めさせるなどという着想も、民話的な道教信仰を詩化したものといってよい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
客の佐渡は、白楽天の一句を想い起し、そして長恨歌ちょうごんかにうたわれた楊貴妃ようきひと漢王との恋など、声なき嗚咽おえつを聞く心地がしていたが——ふと、眼はそこに懸けてある一聯の書に、はっと打たれた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安禄山あんろくざんの叛乱に、兵車のわだちのもとに楊貴妃ようきひを失った漢皇かんおうが、のち貴妃を恋うのあまり、道士に命じて、魂魄をたずねさせ、道士はそれを、かみは碧落の極み、下は黄泉にいたるまでさがしもとめ、遂に
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)