案内あない)” の例文
あるじの勧むるそばより、妻はお俊を促して、お俊は紳士を案内あないして、客間の床柱の前なる火鉢ひばち在るかたれぬ。妻は其処そこまで介添かいぞへに附きたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
くわしく案内あないを致そうずるにて候、あわれ、一杯の般若湯と、五十文の鳥目とをたびてべ候え、なあむ十方到来の旦那様方……
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家居いへゐの作りさま他所にかはれり、その事は下にいふべし)しばしこゝにやすらひて立出しに、これよりまづ猿飛橋さるとびばしを見玉へとて案内あないさきへ立てゆく。
「垣の外に流れがある。常に来て案内あないを知る者ならばちることもあるまいが、見てやりなさい」と、ささやいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆがみよろぼいたる式部官に案内あないせられてきさき出でたまい、式部官に名をいわせて、ひとりびとりことばをかけ、手袋はずしたる右の手の甲に接吻せっぷんせしめたもう。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「面白い。伊達侯よりそちの方が喰い物がよろしいと見えてなかなか話せるわ。事起らばなお望むところじゃ。千夜程も逗留してつかわそうぞ。さそくに案内あないせい」
「そうか、それは大儀であった、では、その悪僧を召捕る、その方、案内あないをいたせ」
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かどを叩けばしもべ出で迎へて、あるじはおん身來まさば、案内あないすることをもちゐざれと宣給のたまひぬといふ。そのさま吾が至るをしたるに似たり。廣間にはとばりおろして、げきとして物音を聞かず。
お覚えのめでたさ、その御機嫌の段いうまでもない——帰途に、身が領分に口寄くちよせ巫女いちこがあると聞く、いまだ試みた事がない。それへ案内あないをせよ。太守は人麿の声を聞こうとしたのである。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もしほかに用がなかったら、案内あないをしてもらいたいところがあるのだが」
ひるくらきみ堂のうちを案内あないして若き尼僧の声もさやけき
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
いづら行かむ君の案内あないに菜の花の二すぢ路の長しみじかし
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「物う、案内あない申う。あるじの御坊おわすか。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たすきとりながら案内あないや避暑の宿
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「いで、その無学蒙昧なる若輩共、この金十郎が取って押えて目に物見せて遣わさん、いざ、案内あないさっせい!」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
案内あない知りたる少女に引かれて、巨勢は右手めてなる石段をのぼりて見るに、ここは「バワリア」のホオフといふ「ホテル」の前にて、屋根なき所に石卓いしづくえ椅子いすなど並べたるが
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さき程番町の屋敷へ訪れたときの容子、案内あないしていきましたときの容子、お紋の方様が治右衛門めの娘とあっては、まさしく腰本が仕組んだ企らみに相違ござりませぬ。
又この人並ひとなみならぬ雲雀骨ひばりぼね粉微塵こなみじんに散つてせざりしこそ、まことに夢なりけれと、身柱ちりけひややかにひとみこらす彼のかたはらより、これこそ名にし負ふ天狗巌てんぐいわ、とたりがほにも車夫は案内あないす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
僕は暫し目をみはりて、いぶかしげに我を見居たるが、さてはあの痩骨やせぎすを尋ね給ふか、檀那は別に御用ありての事なるべければ、案内あないしまゐらせん、されどこれも歸らんは一時間の後なるべし
「——三密の月を澄ます所に、案内あない申さんとは、そ。」
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
格子の外で案内あないを頼む女の声がきこえた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
案内あないはいい」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「早乙女主水之介、眉間傷御披露に罷り越した、通って参るぞ。主計頭どの居室に案内あないせい」
小林こばやしぬしは明日わが隊とともにムッチェンのかたへ立ちたまふべければ、君たちの中にて一人塔のいただき案内あないし、粉ひき車のあなたに、滊車きしゃけぶり見ゆるところをも見せ玉はずや
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あるじ本意ほいならじとはおもひながら、老婢は止むを得ず彼を子亭はなれ案内あないせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小林ぬしは明日わが隊とともにムッチェンのかたへ立ちたもうべければ、君たちの中にて一人塔のいただきへ案内あないし、粉ひき車のあなたに、汽車のけぶり見ゆるところをも見せたまわずや
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「当家第一の座敷がよかろう。上段の間へ案内あないせい」
悪いといへば兼吉つあんの顔色の悪さ、一通りの事ではなささうなり、今から帰るでもあるまじ、不肖ふしょうしておれに附き合ひ喫み直してはと遠慮なきすすめに、おかみが指図して案内あないさするは二階の六畳
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
湯島なるふるさとに来て見れば、表なる塗籠ぬりごめはいたう揺り崩され、屋根なりし瓦落ちつもり、壁の土と共に山の姿なせり。されば常に駕籠舁き入るゝ玄関めく方へ往かむこと難く、さりとてこゝにあるべきならねば、先づ案内あない
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)