朱総しゅぶさ)” の例文
以上を簡単に形容すれば、濃緑こみどりの立ち木に取り巻かれて、黒塗りの朱総しゅぶさ金銀蒔絵まきえの駕籠が、ゆらめき出たということができよう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は藤吉の口利きで今この界隈の朱総しゅぶさを預る相当の顔役になっていたものの、部屋にいたころから勘次とはあまり仲の好い間柄ではなかった。
朱総しゅぶさと、紫総とを、脚につけた鷹を据えて、鷹匠が、現れると、すぐ、馬が見えて、その金と、朱との、豪華な鞍の上に、久光の、横顔が笑っていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
橘に実を抱かせたこうがいを両方に、雲井のかおりをたきしめた、烏帽子えぼし狩衣かりぎぬ朱総しゅぶさの紐は、お珊が手にこそ引結うたれ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高氏のは、螺鈿らでんくら朱総しゅぶさかざりをした黒駒だったが、出門まぎわに荒れ狂ってひどく郎党たちの手をやかせた。そのあいだも、高氏は駒の背から二度三度、妻子のほうをふりかえった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青白い二本の手を突込んで中のものを放り出し初めた……縮緬ちりめんの夜具、緞子どんすの敷布団、麻のシーツ、派手なお召のき、美事な朱総しゅぶさのついたくくまくらと塗り枕、墨絵を描いた白地の蚊帳……。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見て取って貝十郎は苦笑したが、懐中へ手を入れると白檀磨き、朱総しゅぶさの十手を引っこ抜き、膝の上へピタリと立てた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女たらしのほかは能がなく、女房に頭が上らないと見えた恋慕流しの宗七——じつは、辰巳の岡っ引として、朱総しゅぶさを預っては江戸に隠れもない捕物名人なので。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ところで聞かっしゃい、差配おおやさまのうのには、作平、一番ひとつ念入ねんいりってくれ、その代り儲かるぜ、十二分のお手当だと、膨らんだ懐中ふところから、朱総しゅぶさつき、にしきの袋入というのを一面の。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引きには朱総しゅぶさが飾られてあって、駕籠の動揺に従って、ほのおのようにユラユラと揺れる。駕籠を取り巻いている男女の姿も、かなり異様なものであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今では押しも押されもしない十手捕繩の大親分——朱総しゅぶさ仲間の日の下開山かいざんとまでなっているのであった。
壁辰は、左官が本職で、旁々かたがたかみの御用もつとめているのである。岡っ引きとして朱総しゅぶさをあずかり、その方でも、いま江戸で、一と言って二と下らない眼利めききなのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この人物は何者であろう? 誰かが懐中ふところをのぞいたならば、すこしふくらんだふところの中に鼠色ねずみいろをした捕縄ほじょうと白磨き朱総しゅぶさの十手とが、ちゃんと隠されてあることに、きっと感づいたに相違ない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なんぼ朱総しゅぶさが嫌えだっていわば蝉の脱殻だ、そいつを担いで突っ走るがものもあるめえに。」
その一棟に朱総しゅぶさを預る名代の岡っ引釘抜藤吉、乾児勘弁勘次に葬式彦兵衛、この三人が今夜の暴風雨を衝いて犬を追い慕って張出し埋地は木槌山まで出向いて来たについては
金と力のないのが色男の相場、こんな陰間かげまの一匹や二匹、遠慮していては朱総しゅぶさが泣かあね。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
相手に気取けどられぬようにそろそろと、内ぶところの手をどんぶりへ入れて、そこに、寝る間も離したことのない十手のを、いざとなったら飛び掛る気、朱総しゅぶさを器用に手の甲へき締めて
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蟻群の甘きにつくがごとく、投網とあみの口をしめるように、手に手に銀磨き自慢の十手をひらめかして、つめるかと見れば浮き立ち、退しりぞくと思わせてつけ入り……朱総しゅぶさ紫総しぶさときならぬ花と咲かせて。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お役風を吹かせる朱総しゅぶさの十手やとり繩などは、壁にぶら下がっていない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女はつねに、捕り手が迫るがごとにどうにかしてこの稲荷のまえまでおびきよせ、そこで床下の部屋へドロンをきめこんで朱総しゅぶさき、ほとぼりのさめるまでそこで暮らすことにしていたのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
再び、朱総しゅぶさをしごきざま、ちゅう鳴りして来る江府こうふばん壁辰の十手だ。喬之助は、この場合、血を好まなかった。が、こうなってはもう止むを得ない。裸身はだかのままたもとひそませていた河内太郎蛇丸かわちたろうじゃまるの短剣だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)