しゃ)” の例文
一眼の悪いせいか、鬱陶うっとうしげに、やや顔をしゃにして物をいうのも、正成の癖である。濃い眉毛と、高い隆鼻が、横顔では、よけい目立つ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滑稽とも悲惨ともいいようのない真面目くさったようすでしゃにかまえ、賭博場カジノ玉廻しクルウビエそっくりの声色で「みなさん、張り方をねがいましょうフェート・ウォ・ジュウ・メッシュウ
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
だから、右門は表へ出ると、いまかいまかというように十手をしゃに構えながら、気張っていた伝六を顧みて、くつくつと笑いながらいいました。
その向うには何でも適中あたるという評判の足和尚おしょうさんが、丸々と肥った身体からだに、浴衣がけの大胡座おおあぐら筮竹ぜいちくしゃに構えて、大きな眼玉をいていた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「何じゃいし。」と振向くと、……亭主いつの間にか、神棚のもとに、しゃと構えて、帳面を引繰ひっくって、苦くにら
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
倉地は右の肩を小山のようにそびやかして、上体をしゃに構えながら葉子をにらみつけた。葉子はその目の前で海から出る夏の月のようにほほえんで見せた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
むちしゃに構えて、気取ったお辞儀をすると、金ピカ猛獣使いは、舞台の隅にしりぞいて、道具方に合図をした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「イヤ、これはどうも恐れいった。お奉行様が小倉の袴の股立ちをとって、六尺棒をしゃにかまえて、夜風に吹かれて立ってるかッてンだ。相当奇抜きばつな娘だナ、こいつは」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
見台を前にして、張扇はりおうぎでなく普通の白扇はくせんしゃに構えたところなんぞも、調子が変っている。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なが年の苦界くがいづとめを、はっきりとひとの眼に告げるせ細った身体をしゃにかまえて
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
曲彔きょくろくる住持の三要は正面にひかえ、東側は大衆大勢。西側に昭青年一人。問答の声はだんだん高くなって行きます。衣の袖をたすきに結び上げ、竹箆しっぺいしゃに構えた僧も二三人見えます。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
枝は頑固がんこで、かつてまがった事がない。そんなら真直まっすぐかと云うと、けっして真直でもない。ただ真直な短かい枝に、真直な短かい枝が、ある角度で衝突して、しゃに構えつつ全体が出来上っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
呂昇は無頓着に三絃取ってしゃに構え、さっさと語り出した。咽喉のどをいためて療治りょうじ中だと云うに、相変らず美しい声である。少しは加減して居る様だが、調子に乗ると吾を忘れて声帯せいたいふるうらしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
聞いて横から飾り十手をしゃに構えながら、ここぞとばかりしゃきり出たのは、だれならぬおしゃべり屋の伝あにいです。
はなやかな下着を浴衣の所々からのぞかせて、帯もなくほっそりと途方に暮れたように身をしゃにして立った葉子の姿は、男の目にはほしいままな刺激だった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
月江も三日月なりの短いやいばしゃにかまえて、寄らばと強く身を守りました。——しかし、彼女がそうして向えば刃向うほど、血を見た情炎の男は狂うばかりです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ひどく色気のある眼つきでしゃに顎十郎の顔を見あげる。顎十郎は恐悦しながら盃を取りあげ
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おまけに、こうしゃにかまえて、延べ鏡のような刀身を陽にすかして、ためつすがめつしているようすが、どうも十郎兵衛をこの上ない眼ききのように見せるからたまらない。
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何事ならんとせ集まった者共を前に置いて、先生は薬研やげんの軸をしゃに構え
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十手をしゃに握りとったあいきょう者を先頭にして、なぞのかぎを追う主従ふたりは、その場から点々と残されている粂五郎の足跡を拾いはじめました。
車夫は葉子を助けようにも梶棒かじぼうを離れれば車をけし飛ばされるので、提灯ちょうちんしり風上かざかみのほうにしゃに向けて目八に上げながら何か大声に後ろから声をかけていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれど彼はただ顔をしゃに向けて威儀だけをつくろッていた。自分は神でないとだけしかいわなかった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの白髪赭顔しゃがんのおごそかな姿が、鉄扇をしゃに構えて、そこにすわっていられたものだが。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白扇をしゃにかまえて、「志津子さんでしたか、何年前でしたか、いちどお目にかかりました。引揚船で上海からお帰りなったことは聞いていましたが、かけちがってお目にもかかれず」
猪鹿蝶 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は膝を組み直して、一管をしゃに構えました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同時に、伝六が息ばりながら十手をしゃに構えとって、たちまち音をあげたのは当然でした。
『山岡屋、てめえ、煙管きせるしゃにつかんで、何うする気だ。——七百両をのりでゆけば、取り分は半分になる。勿体ねえから嫌だというんだ。おらあ一人であの金をげるんだから』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白扇をしゃにかまえて、「ああ、志津子さん、何年前でしたか、いちどお目にかかりました。引揚船で、上海からお帰りなったことは聞いていましたが、かけちがってお目にもかかれず」
姦(かしまし) (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
白扇をしゃに構えて、どなりました。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と鐚は扇子をしゃに構え
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
卜斎はなんにも知らず、がんこな煙管きせるしゃにもって、スパリ、スパリ、とふかしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見るや退屈男は、ついと身を泳がして、傍らの捕り手がしゃに構えていた六尺棒を手早く奪いとるや、さっと狙いをつけて馬腹目ざしながら投げつけたのは咄嗟の早業の棒がらみです。
特に、持ち出して来たらしい白檀骨びゃくだんぼね上海シャンハイ扇子を、胸のあたりへ、しゃに持っている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白い衫衣すずしに、唐団扇からうちわを持ち、からだをしゃに脇息から、藤夜叉の姿を眺めていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お甲は、床几しょうぎへ、片手をついて、体をしゃにして振向きながら
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぱっと、一僧が、槍をしゃに持ったまま、躍り出した。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丈八の蛇矛をしゃに構えて、かっとにらみつけた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)