攘夷じょうい)” の例文
京都の女なら、芸妓げいこ、仲居までが、攘夷じょういとは、どんなものか。京洛みやこには、今誰が来ているか、政変や、大官の往来などにも、関心を
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これほど攘夷じょういの声も険しくなって来ている。どうして飯田の商人がくれた横浜土産の一つでも、うっかり家の外へは持ち出せなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
らに兵庫ひょうご和田岬わだみさきに新砲台の建築けんちくを命じたるその命を受けて築造ちくぞうに従事せしはすなわち勝氏かつしにして、その目的もくてきもとより攘夷じょういに外ならず。
いわゆる(二字不明)おおしで、新思想を導いた蘭学者らんがくしゃにせよ、局面打破を事とした勤王きんのう攘夷じょういの処士にせよ、時の権力からいえば謀叛人であった。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
幕府の秕政ひせいを鳴らし、尊王を叫び攘夷じょういを唱える、聞く者にとってそれが退屈であろうと無味乾燥であろうと構わない、そんなことはどちらでもいい
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうだ、流行りものとなると、人気がまるっきり別になってしまうんだ。今時いまどき攘夷じょういというやつもそれと同じで、そのことができようとできまいと、それを
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
攘夷じょうい家の口吻こうふんを免れずといえども、その直截ちょくせつ痛快なる、懦夫だふをして起たしむるにあらずや。述懐じゅっかいの詩にいわく
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
尊王攘夷じょうい、佐幕開港、日本の国家は動乱の極、江戸市中などは物情騒然、辻切、押借、放火、強盗、等、々、々といったような、あらゆる罪悪は行われていたが
染吉の朱盆 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「悪口を言うなよ。此処は鎖国さこく攘夷じょういの精神の盛んなところだから、うっかりすると打ん撲られるぜ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
嘉永年中アメリカ人渡来せしより外国交易こうえきのこと始まり、今日の有様に及びしことにて、開港の後もいろいろと議論多く、鎖国攘夷じょういなどとやかましく言いし者もありしかども
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分が井伊大老の開港政策を是認し踏襲とうしゅうしようとしているために、国賊とののしり、神州をけがす売国奴といきどおって、折あらばとひそかに狙っている攘夷じょうい派の志士達は勿論もちろんその第一の敵である。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
維新のとき人にすぐれたる勲功のありし由は。門に打ちたる標札に。従三位じゅさんみ子爵なにがしと昨日今日墨黒すみぐろに書きたるにても知りぬべし。さればその昔し尊王を唱え攘夷じょういを説き。四方に奔走せし折は。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
藤田東湖、藤森弘庵の二人は十一月徳川家定が将軍宣下せんげの式を行う時勅使の京都より下向げこうするを機とし、これより先に京師けいし縉紳公卿しんしんくぎょう遊説ゆうぜい攘夷じょういの勅旨を幕府に下さしめようとはかった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日本人を早く文明に進めたいという、悪戯いたずら子供を親が叱ると同様であって、悪意ではなかったのであるが、我々からは如何いかにも悪意のように見えたのである。ここに於て、攘夷じょうい論なども起る。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そういう藤田東湖は、水戸内部の動揺がようやくしげくなろうとするころに、開港か攘夷じょういかの舞台の序幕の中で、倒れて行った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
壮士は、立ってその棒をさげて来た——これは力士小野川が水戸烈公の差図さしずにより、次第によらば攘夷じょういのさきがけのためとて、弟子どもに持たせた樫の角棒。
一例だけあげますと、そしてこの問題こそ重要なのですが、さきごろ一派の若侍たちが攘夷じょうい論を誤って解釈し、横浜港にある外人商館を襲撃しようとはかりました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安政五年戊午ぼご 正月、大いに攘夷じょうい論を唱う。閣老掘田正篤まさひろ京都に遊説ゆうぜいす。三月、大詔たいしょう煥発かんぱつ。四月、井伊大老たいろうとなる。六月、勅許ちょっきょたずして、米国条約の調印をなす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その中には多少時勢じせいに通じたるものもあらんなれども、多数に無勢ぶぜい、一般の挙動はかくのごとくにして、局外よりながむるときは、ただこれ攘夷じょうい一偏の壮士輩そうしはいと認めざるを得ず。
急に、彼が、画筆をすてて足利へ戻ったのは、加速度にけわしくなってきた時勢に衝撃されたのである。王政回天の輿論、攘夷じょういの叫び、討幕の運動、すさまじいものになってきた。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時論は攘夷じょういの頂上に達し、洋学者のごときは所謂いわゆる悪魔外道の一種にして、世間にれられざるのみか、又したがってそのにくむ所とり、時としては身辺の危険さえ恐ろしき程の次第なりしかども
江戸屋敷の方から来た長州侯の一行が木曾街道経由で上洛じょうらくの途次、かねての藩論たる公武合体、航海遠略から破約攘夷じょういへと
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この中には、新庄藩主戸沢上総介とざわかずさのすけ殿の誓書が入っているのです。尊王攘夷じょういを朝廷に誓い奉る誓書です。
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
徳川を擁護ようごするのと、それを倒そうとするのとが、天子おわすところでみ合っている——その間にからまるのが攘夷じょうい。志士を気取って勤王を看板に、悪事を働く厄介者やっかいもの
起承は則ち尊王そんのうなり。転結は則ち攘夷じょういなり、尊王攘夷の大精神は、実にこの人の活ける名号なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しからば幕府の内情は如何いかんというに攘夷論じょういろんさかんなるは当時の諸藩しょはんゆずらず、な徳川を一藩として見れば諸藩中のもっとも強硬きょうこうなる攘夷じょうい藩というも可なるほどなれども、ただ責任せきにんの局にるがゆえ
やかましい攘夷じょういの問題も今に全くなくなりましょう。この国を開く日の来るのも、もうそんなに遠いことでもありますまい。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日本国中の学者達は勿論もちろん、余り物知りでなき人までも、何か外国人は日本国を取りにでも来たやうに、鎖国の、攘夷じょういの、異国船は日本海へ寄せ付けぬ、唐人へは日本の地を踏ませぬなど
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鎖港さこうの論より海関税全廃・自由貿易の論に至るまで、攘夷じょういの説より内地雑居の説に至るまで、いくばくの日子といくばくの時代を経過したるか、これを想い、これを思えば夢のごとく幻のごとく
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
攘夷じょういと言い開港と言って時代の悩みを悩んで行ったそれらの諸天にかかる星も、いずれもこの国に高い運命の潜むことを信じないものはなく
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かように天下有事、幕政維持か、王政復古かの瀬戸際——それに外国の難題が、攘夷じょういか開国かで、怪奇ではないが、複雑を極めた間にあって、一歩あやまれば、社稷しゃしょくが取返しのつかないことになる。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あれほど大きな声で攘夷じょういを唱えた人たちが、手の裏をかえすように説を変えてもいいものでしょうかね。そんなら今までの攘夷は何のためです。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
開港か、攘夷じょういか。これほど矛盾を含んだ言葉もない。また、これほど当時の人たちの悩みを言いあらわした言葉もない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)