掻潜かいくぐ)” の例文
旧字:掻潛
振り返ったガラッ八の袖の下を掻潜かいくぐり様、ト、ト、トと前へ、物に驚いた美しい鳥のように駆け抜けたのは、紛れもなく若い女です。
「ああ、可いとも、」といって向直って、お品は掻潜かいくぐってたすきはずした。斜めに袈裟けさになって結目むすびめがすらりとさがる。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その袖の下を掻潜かいくぐるように五六間来ると、ちょうど唐紙の隙間から漏れるあかりの中に主人の孫右衛門、血潮の中に断末魔のうごめきを続けていたのでした。
見る見るあかくちなわは、その燃ゆる色に黄金のうろこの絞を立てて、菫の花を掻潜かいくぐった尾に、主税の手首を巻きながら、かしらに婦人のの下をくれない見せてんでいた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中に一人いちにん真先まっさきかけて、壁の穴をふさいで居たのが、此の時、掻潜かいくぐるやうにして、おそろしい顔を出した、めんおおきさ、はりなかばおおうて、血のすじ走るきんまなこにハタと桂木をめつけた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
婦人おんな上框あがりがまちに立ちたるまま、かいなを延べたる半身、ななめに狭き沓脱くつぬぎの上におおわれかかれる。その袖の下を掻潜かいくぐりて、摺抜すりぬけつつ、池あるかたに走りくをはたはたと追いかけて、うしろよりいだとど
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
温泉の口なる、花室の露を掻潜かいくぐって、山の裾へ出ると前後あとさきになり、やぶについて曲る時、透かすと、花屋が裏庭に、お雪がまだ色も見え分かぬ、朝まだき、草花の中に、折取るべき一個ひとつかごを抱いて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)