当身あてみ)” の例文
旧字:當身
と、また飛びついてきたやつは、待ちかまえていた六部が、気合いをかけた当身あてみのこぶしで、あごをねらってひときに、突きとばす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怒鳴どなって、外へ飛び出そうと立直った時、彼を押込んだ運転手の右手が、鉄の様な握りこぶしになって、パッと胸を打った。柔道の当身あてみである。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
云うとたんに、六郎兵衛は相手の胸さきをあげた。彼は当身あてみをくれるつもりだったらしい、だが、そのとき、向うの暗がりから人が出て来た。
前に倒れた奴が口惜くやしいから又起上って組附いて来る処を、こぶしを固めて脇腹の三枚目(芝居でいたす当身あてみをくわせるので)
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれども、その挨拶振あいさつぶりは義理か、通り一遍のものだった。どの店の人間も彼の当身あてみの多い講釈には参らされていた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
やがて一つの室へ出たが、数馬の早速の早業で番兵三人に当身あてみをくれ、気絶するところを縛り上げたので、無事にその室を通過よぎることが出来た。と、また高い階段となる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一当て当身あてみをくれて息の根をとめて、それから水に入ったんですから、それで女の子が水を呑んでいない——おさむらいの方は、何か別に仕方があったんでござんしょう
何、どうしたと、そくなって反対あべこべ当身あてみくらった。それだから虚気うっかり手を出すなと言わねえことか。や、銀平殿お前もお帰りか。「はい、旦那唯今。「うむ、御苦労、なに下枝さんはどうじゃ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殺すワケがあるかえ。当身あてみで倒す腕もある。まして祝言の当夜だぜ。石頭には人の心が解けないなア。人の心には曰くインネン故事来歴があって、右が左にはならないものだぜ。ちとオレの小説を
甚五郎は当身あてみを食わせた。それきり蜂谷は息をき返さなかった。平生何事か言い出すとあとへ引かぬ甚五郎は、とうとう蜂谷の大小を取って、自分の大小を代りに残して立ち退いたというのである。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
当身あてみを食わせ、倒れるを少し介錯して、地に寝かす)
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
急所の当身あてみでも喰わせたかも知れません。
川上磯関大尉得意の当身あてみであった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
右のこわきに、咲耶子さくやこのからだを引っかかえていた。不意ふいに、当身あてみをうけたのであろう、彼女かのじょは力のない四をグッタリとのばしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当身あてみでもくれたのでしょうか、ひとこえ呻く御老職をひっ担ぎました、私もこれは一大事と思い、必死の勇をふるって二人を投飛ばし、早速ここへ御注進に
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
またその機転が利いていたところで、当身あてみや活法は、施すべき時と相手とがある。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とうとう当身あてみでもって気を失ってしまった。それから、どれほどたったか、ふと眼をさますと、僕は手足を縛られて、まっぱだかにされて、ここの物置き部屋にころがされていたんです。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もともと金吾があの時の不覚は、日本左衛門の当身あてみ脾腹ひばらにうけたのみで、正気がつけば何も病床に親しむほどのことはない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その床几の上に横たわっている人間の二本の脚もとから——顔の方をずっと見上げて、どきっと、鳩尾みずおち当身あてみを食ったような衝動をうけた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウム、拙者もそう考えているが……その時に弦之丞が、宅助へ当身あてみをくれたということが、どうもよく呑みこめない」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と一の洞門では、早くもその足音をさとって、ひとりが大手をひろげてどなると、鉄球てっきゅうのように飛んでいった伊那丸が、どんと当身あてみの一けんをついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
バラバラッと蓆囲いを目がけて躍り込んで行くと、物蔭に隠れていた熊谷笠の大月玄蕃が、いきなりドンとこんがらの鳩尾みずおちを狙って突き出した当身あてみけん
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれには一度、真土の山の黒髪堂で、素早い当身あてみをくらッています。あの苦い味を与えられている相手です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれは森啓之助の仲間ちゅうげん、拙者の顔を見知っているゆえ、当身あてみをくれておいたのだが、しかし、四国屋のお内儀、さだめし驚いたことであろう。そなたからわけを
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ズンと深く食い込んだまま牙歯きばのように立ち、かれは大地に弓なりに仆れています——言うまでもなく日本左衛門に袖をくぐられた当身あてみ! あばらを折られていなければ僥倖ぎょうこうなのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ちょっと当身あてみをくれておいた」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脾腹ひばら当身あてみ! たった一突き。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)