“存(あ)” の例文
客観的には時間の不足が原因であるのに、気分の満たされないものが、何か互の気持の内に存(あ)るように感じられたりするのではないでしょうか。
算盤(そろばん)ずくで遊山する了見にはなりたくないもの、江戸ッ児の憧憬はここらにこそ存(あ)っておるはずであるのに……。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
「誠に実(まこと)に爾曹(なんじら)に告げん一粒の麦もし地に落ちて死なずば唯一つにて存(あ)らんもし死なば多くの実を結ぶべし。」
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
髪の結様(ゆいよう)どうしたら誉(ほめ)らりょうかと鏡に対(むか)って小声に問い、或夜(あるばん)の湯上(ゆあが)り、耻(はずか)しながらソッと薄化粧(うすげしょう)して怖怖(こわごわ)坐敷(ざしき)に出(いで)しが、笑(わらい)片頬(かたほ)に見られし御眼元(めもと)何やら存(あ)るように覚えて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ゆうべも稲ちゃんとそんな話になり、ロマンとこの頃、長篇小説という字にルビつけている、そういうロマンしか存(あ)り得ない。そんな話が出ました。
声はあやなき闇に迷ひて消ゆるが如く存(あ)るが如く、空にかくれてまたふたゝび空より幽に出で来るごときを、吾が声とも他(ひと)の声ともおぼつかなく聴きつゝ、濁劫悪世中(ぢよくごふあくせちゆう)、多有諸恐怖(たうしよきようふ)、悪鬼入其身(あくきにふごしん)
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
非常に優しい勇気のある美しい動作にしろ、それがその現実の充実した脈搏で描き出されるということが殆ど不可能と思えることだって存(あ)るわけですもの。