“墮(お)” の例文
新字:堕
然(しか)るを、元嘉(げんか)、京洛(きやうらく)の貴婦人(きふじん)、才媛(さいゑん)は、平時(へいじ)に件(くだん)の墮馬髻(だばきつ)を結(ゆ)ふ。たとへば髷(まげ)を片潰(かたつぶ)して靡(なび)け作(つく)りて馬(うま)より墮(お)ちて髻(もとゞり)の横状(よこざま)に崩(くづ)れたる也(なり)。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
疾(と)く行き給へと口には言へど、つれなき涙は眶(まぶた)に餘りて、頬(ほ)の上に墮(お)ち來りぬ。われ。そは餘りに情なし。われはおん身の今不幸なるを知りぬ。
その時この白い女人柱(カリヤチイド)の張切つた背(せ)の上に、神々(かみ/″\)の涙が墮(お)ちて、突き刺された怪獸(シメエル)の痍口(きずぐち)から、血の滴(た)れるのがみえる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
反對に人間から惡魔に墮(お)ちるなんてことは、きつとありはしないわねえ? いゝえ、そんな事は決してないと思ふわ。
わが墓所(はかどころ)をば血と穢(けがれ)との溝となせり、是においてか天上より墮(お)ちし悖(もと)れる者も下界に己が心を和らぐ。 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
其處(そこ)で廷丁(てい/\)は石を庫(くら)に入んものと抱(だ)き上(あげ)て二三歩歩(ある)くや手は滑(すべ)つて石は地(ち)に墮(お)ち、碎(くだ)けて數(すう)十片(ぺん)になつて了(しま)つた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「そんな事は解つて居るよ。鐵心道人はもう半分地獄に墮(お)ちて居る。それより淺川團七郎の方は何うしたんだ」
名所圖繪を繙(ひもと)きても、其頃は路(みち)嶮に、溪(けい)危(あやう)く、少しく意を用ゐざれば、千尋(じん)の深谷(しんこく)に墮(お)つるの憂ありしものゝ如くなるを、纔(わづ)かに百餘年を隔てたる今日(こんにち)、棧橋(かけはし)の跟(あと)なく
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
怎(どう)しても六分、——未知數を味方に加算して、六分五厘位迄に墮(お)ちて居た。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
無限なる空間を墮(お)ちて行きにけり割り切れぬ數の呪を負ひて
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
「赤子(あか)、んで墮(お)りたのか?」と、ひよいときいた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
かつ墮(お)ちかつ浮び來るそのきそひに
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そして牧師があすこで云はうとしてゐるやうに、確かに最も嚴(いか)めしい神の裁き、消しがたい業火(ごふくわ)、死ぬことのない蟲けらの地獄に墮(お)ちて行くのが當然なのだ。
はたと我頂を撃つものあり。嗚呼、功徳(くどく)無量なる聖母(マドンナ)よ。こはおん身の像を寫せる小匾額(せうへんがく)にして、偶〻(たま/\)壁頭より墮(お)ち來りしなり。否(あら)ず、偶〻墮ち來りしに非ず。
しりへに墮(お)つる姫神や
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
頽(くづ)れ墮(お)ちたるついぢの石に、三頭の馬を繋ぎたるが、皆おの/\顋下(さいか)に弔(つ)りたる一束の芻(まぐさ)を噛めり。
墮(お)ちぬまを吸ひぬ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)