めぐ)” の例文
八丁ばかり行くと鞍部、右手には、残雪に近く石垣をめぐらせる屋根なしの廃屋、此処は、燃料に遠く風も強くて露営には適せぬ。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
其に入りこみの多い池をめぐらし、池の中の島も、飛鳥の宮風に造られて居た。東のなかかど、西の中み門まで備って居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
また野営の天幕をめぐって、細いがよく透る牝鹿の、遠くなったり近くなったりする鳴声を終夜聞くことなどもある。
南北アルプス通説 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
純白まっしろの裏羽を日にかがやかし鋭く羽風を切って飛ぶは魚鷹みさごなり。その昔に小さき島なりし今は丘となりて、そのふもとには林をめぐらし、山鳩やまばと栖処ねぐらにふさわしきがあり。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして、漫々とたたえた水が、ゆるく蒼空あおぞらを映して下流の方へ移るともなく移って行く。軽く浮く芥屑ごみくずは流れの足が速く、沈み勝ちな汚物をめぐるようにして追い抜いていく。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と、人の顔をキョロキョロ物色しながら、この広い原のまわりをめぐって歩いてゆく。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、私は甲板をひとめぐりした。どうにも頭が病めてしかたがなかったのである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それより二百余年おくれて渡天した唐の玄奘げんじょうの『西域記』にはマツラを秣莵羅とし、その都のめぐり二十里あり、仏教盛弘する由を述べ、この国に一の乾いた沼ありてそのかたわらに一の卒塔婆そとば立つ
以上を平ヶ岳の全部と見るべきであろう、越後方面の白沢と即ち中岐川の支流(灰又山の南のもの)と、上野方面の利根川の本流とその支流の水長沢の南の一源とで平ヶ岳全部をめぐっているのである
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
小説家 南から北へめぐるつもりです。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
帷帳とばりめぐらした中は、ほの暗かった。其でも、山の鬼神もの、野の魍魎ものを避ける為の灯の渦が、ぼうとはりに張り渡した頂板つしいたに揺めいて居るのが、たのもしい気を深めた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
支那でいわゆる冬瓜蛇はこの族のものかとおもうが日本では一向見ぬ。『西遊記』一に、肥後五日町の古いえのき空洞ほらに、たけ三尺余めぐり二、三尺の白蛇住む。その形犬の足なきかまた芋虫によく似たり。