向側むかうがは)” の例文
一方いつぱう廣庭ひろにはかこんだ黒板塀くろいたべいで、向側むかうがは平家ひらや押潰おしつぶれても、一二尺いちにしやく距離きよりはあらう、黒塀くろべい眞俯向まうつむけにすがつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、大麓氏は、「へえ、中沢君が油絵をく。」と言つて、不思議さうに卓子テーブル向側むかうがはにゐた中沢博士の顔を見た。「それは初耳だ、真実まつたくですか。」
博勞ばくらうなんちい奴等やつら泥棒根性どろぼうこんじやうくつちや出來でき商賣しやうべえだな、ちくらつぽうんぬいて、兼等かねらりや、れことせえおつめるつもりしやがつて」かね博勞ばくらう向側むかうがはから戯談じようだんらしい調子てうしでいふと
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おもて窓際まどぎはまで立戻たちもどつて雨戸あまどの一枚をすこしばかり引きけて往来わうらいながめたけれど、向側むかうがは軒燈けんとうには酒屋らしい記号しるしのものは一ツも見えず、場末ばすゑまちよひながらにもう大方おほかたは戸をめてゐて
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
女中ぢよちうはうは、前通まへどほりの八百屋やほやくのだつたが、下六番町しもろくばんちやうから、とほり藥屋くすりやまへで、ふと、左斜ひだりなゝめとほり向側むかうがはると、其處そこ來掛きかゝつたうすもの盛裝せいさうしたわかおくさんの
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
麹町かうぢまち番町ばんちやう火事くわじは、わたしたち鄰家りんか二三軒にさんげんが、みな跣足はだし逃出にげだして、片側かたがは平家ひらや屋根やねからかはら土煙つちけむりげてくづるゝ向側むかうがは駈拔かけぬけて、いくらか危險きけんすくなさうな、四角よつかどまがつた
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)