取出とりい)” の例文
(みづから天幕テントの中より、ともしたる蝋燭ろうそく取出とりいだし、野中のなかに黒く立ちて、高く手にかざす。一の烏、三の烏は、二の烏のすそしゃがむ。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
遁るべきやうなければせんかた無くせめてはくもせば助からんかと、うえの用意に持ちたる団飯にぎりめし取出とりいで、手に載せて差出せしに、取食ひて此上無く悦べる様なり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なんでも飛騨ひだゑん当時たうじかはつたこともめづらしいこともなかつたが、たゞ取出とりいでゝいふ不思議ふしぎは、医者いしやむすめで、うまれるとたまのやう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はじめの烏、又、旅行用手提げの中より、葡萄酒ぶどうしゅびん取出とりいだし卓子テエブルの上に置く。後の烏、青き酒、赤き酒の瓶、続いてコツプを取出とりいだして並べそろふ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「御注意難有ありがとう存じます。」と伯爵夫人が御会釈あり。取出とりいだすは折目無き五円紙幣さつ。「これで。」と差出さしいだせば、「はいはい。」と取ってすましたもの、剰銭つりださん気色も無し。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひつぎまへ銀樽ぎんそん一個いつか兇賊等きようぞくらあらそつてこれをむに、あまかんばしきこと人界じんかいぜつす。錦綵寶珠きんさいはうじゆ賊等ぞくらやがてこゝろのまゝに取出とりいだしぬ。さてるに、玉女ぎよくぢよひだりのくすりゆびちひさきたまめたり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
びん真白ましろき手を、矢を黒髪に、女性にょしょうの最も優しく、なよやかなる容儀見ゆ。を持てるが背後うしろに引添い、前なる女のわらべは、錦の袋を取出とりいで下よりかざし向く。媛神、半ばかざして、その鏡をる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さてはあつらへたまひし如く家に送りたまふならむとおしはかるのみ、わが胸のうちはすべて見すかすばかり知りたまふやうなれば、わかれのしきも、ことのいぶかしきも、取出とりいでていはむはやくなし。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)