十歳とお)” の例文
司祭さん、これは貧しい人たちに施して下さい。——司祭さん、十歳とおばかりの小さい子供です。たしか一匹のモルモットと絞絃琴ヴイエルとを
だが俺は、いくら貴様が、入壇したからといっても、まだ乳くさい十歳とおやそこらのはなれを、一人前の沙門しゃもんとは、認めないのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「昨日逢った時あんなに元気だったが、死顔を見ると——もっとも死顔は相好の変るものだが、——十歳とおぐらいは老けていたよ」
それは片商売に荒物を売っている店で、十歳とおばかりの男の児が店の前に立っていたが、半七らを見ると慌てて内へ逃げ込んだ。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おお、おおそんな事もござんした。その時私は六歳むっつ七歳ななつ。そうしてお前は十歳とおか十一……ああ、あの頃は罪がなかった」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いひかけて傍に寐させし子の、十歳とおには小さきが寒さうに、母親の古袷一ツに包まれたる寝姿を見て、急にホロリとなり
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
年のわりに小柄で(彼はもう十歳とおになっていた)、まるまると肥って、きれいな空色の目をして、両の頬にはえくぼがあった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
現在げんざいはは様子ようすは、臨終りんじゅうとき様子ようすとはびっくりするほどかわってしまい、かおもすっかりほがらかになり、年齢としもたしかに十歳とおばかり若返わかがえってりました。
梅ちゃんは十歳とおの年から世話になったが、卒業しないで退校ひいても先生別に止めもしなかった、今は弟の時坊が尋常二年で、先生の厄介になっている
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「捕るなら腕で来い」といったスゴイ調子で南鮮沿海を荒しまわる事五年間……せがれの友太郎も十歳とおの年から櫓柄ろづかに掴まって玄海の荒浪を押し切った。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
成吉思汗ジンギスカン そうだったかしら。なんでもそいつを流れに取られて、君は岸に立ってしくしく泣いていたっけ。あの時、君は十歳とおぐらいだったかしら。
十歳とおばかりの頃なりけん、加賀国石川ごおり松任まっとうの駅より、畦路あぜみちを半町ばかり小村こむら入込いりこみたる片辺かたほとりに、里寺あり、寺号は覚えず、摩耶夫人おわします。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せんのお母さんは、わたしが十歳とおの時に病気で亡くなりました、わたしはその亡くなった時のことをようく存じております、世間では、今のお母さんが
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お前さんはもう十歳とおにもなるんだからちっとは稼ぐ事も覚えなくちゃいけないじゃないかね。お前さんのためには私達どんなに苦労してるか知れないよ。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
『あたし、右の人さし指で何でも金にする力があって、』と十歳とおになる女の子のペリウィンクルが言い出した
十歳とおばかりの男の子に手を引かれながら、よぼ/\して遣ってまいり、ぼろ/\した荒布あらめのような衣服きものを着、肩は裂け袖は断切ちぎれ、恐しいなりをして居ります。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「今から十年も前というと、お蔦がようやく九つか十歳とおの頃。……先生、こりゃ妙なことになりました」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ここで、わたしという、あんぽんたん女史十歳とおか十一歳の、ぼんやりした映像をお目にかける。
今日は網曳あびきする者もなく、運動するひとの影も見えず。を負える十歳とおあまりの女の子の歌いながら貝拾えるが、浪子を見てほほえみつつかしらを下げぬ。浪子は惨としてみつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それでも宅にさえいれば、よくうさん臭いものにえついて見せた。そのうちで最も猛烈に彼の攻撃を受けたのは、本所辺から来る十歳とおばかりになる角兵衛獅子かくべえじしの子であった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その中に十歳とおぐらいに見えて、白の上に淡黄うすきの柔らかい着物を重ねて向こうから走って来た子は、さっきから何人も見た子供とはいっしょに言うことのできない麗質を備えていた。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「此のむきじゃ、十歳とおになっても、二十歳はたちになっても、ややと云ったかも判らない」
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「わたくしが、ベルグラードの中学校ギムナジュームへ入った年、スパセニアが十歳とおの春でしたわ」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
お嬢さまがまだ十歳とおの時からでした。
すると、そのお安が十歳とおになった時に、今まで子種がねえと諦めていたおかみさんの腹が大きくなって、女の子が生まれた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
評判の悪い山崎屋勘兵衛だけならともかく、何にも知らぬ、十歳とおの少年を殺したのは、どんな動機があったにしても許しておけない気持だったのです。
おぼろ/\と霞むまで、暑き日の静さは夜半にも増して、眼もあてられざる野の細道を、十歳とおばかりの美少年の、尻を端折はしより、竹の子笠被りたるが、跣足はだしにて
紫陽花 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
年齢としから云っても精々のところ、俺は青年より十歳とおより以上、年上であろうとは思われないのだからな。
ハハハと笑って口をあいて見せた歯並はなみが、ばかに細かくて白い。としは、そうさ、七兵衛よりも十歳とおも若いか、笠を取って見たら、もっとずっと若いかも知れない。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年齢としころはやっと十歳とおばかりのうつくしい少女しょうじょが、七十さいくらいゆる白髪しらが老人ろうじんともなわれてっていました。
七歳ななつの日吉と、十歳とおになる姉と、わずか二人に過ぎなかったが、どっちもまだ何の働きに出せる年でもないし——良人おっと弥右衛門やえもんは、夏でも炉ばたに坐ったきりで
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十歳とおで、小柄で、ませている、清元の巧者じょうずな、町の小娘お金坊は、蝶々まげにさした花かんざしで頭をきながら、ええといった。あんぽんたんのことは話しずみの友達だったのだろう。
三度の飯さえ碌に喰わない程でしたから、子供心に早く母親の手助けを仕ようと思って、十歳とおの時清兵衛親方の弟子になったのですが、母親も私が十七の時死んでしまったのです
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
少弐は死ぬまぎわにも、もう十歳とおぐらいになっていて、非常に美しい姫君を見て
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私まだ十歳とおばかりだったから、よくおぶさったりしてあげたわ。今でもどうかすると、僕の背中に乗っかったことがある癖に生意気だなんて、人を馬鹿にしてしまいなさることがあってよ。
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
十歳とおの時から船渠ドックで船腹の海草焼きだ。それから汽鑵かま掃除からペンキ塗りと仕上げて、今じゃツーロン潜水夫組の小頭で小鮫のポンちゃんといやア、チッたア人に知られた兄さんなんだヨ。
厚樫あつがししんとおれと深く刻みつけたる葡萄ぶどうと、葡萄のつると葡萄の葉が手足のるる場所だけ光りを射返す。この寝台ねだいはじ二人ふたり小児しょうにが見えて来た。一人は十三四、一人は十歳とおくらいと思われる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
草原の出外れに見える二三軒の藁屋根のある方から十歳とお位に見える色の白い小供が来ている。と、此方から一人の小供が往って往きあうなり何か云っていたが、直ぐ二人で伴れ立って此方へ来た。
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
或日の事、十歳とおばかりの児が来て
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
去年七十七歳で死んだわたしの母は、十歳とおの年に日本橋で安政あんせいおお地震に出逢ったそうで、子供の時からたびたびそのおそろしい昔話を聴かされた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
持っておりましたが、十歳とおにもなって、迷子札でもあるまいと、近頃は巾着ごと用箪笥ようだんすへ入れてあるはずで——
「それよりか、お前さん、この浜で十歳とおぐらいになる男の子を一人見なくって、清澄の茂太郎といって、可愛らしい子なのよ、そうして歌をうたうのが上手な子供」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
民也はここのツ……十歳とおばかりの時に、はじめて知って、三十を越すまでに、四度よたび五度いつたびたしかに逢った。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まだ、十歳とおや十一の小童を、山へ連れ登られたことさえ、奇怪であるのに、ものものしい入壇授戒を、あのはなれの稚僧に、ゆるすとあれば、すこし、狂気の沙汰である」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして猪太郎は十歳とおとなったがその体の大きさは十八、九歳の少年よりももっと大きくもありたくましくもあり、その行動の敏活とその腕力の強さとは真に眼覚めざましいものであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十歳とおより上の人はお雛様遊びをしてはよくないと世間では申しますのよ。あなた様はもう良人おっとがいらっしゃる方なんですから、奥様らしく静かにしていらっしゃらなくてはなりません。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
其の暮にとっさんが死んだから、おふくろが貧乏の中で丹誠して、己が十歳とおになるまで育ってくれたから、職を覚えてお母に安心させようと思って、清兵衞親方という指物師の弟子になったのだ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かたすみに、立派な長椅子いすの上に、十歳とおばかりの女の子が座っていました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いくら浜村屋が酔興すいきょうでも、九つ十歳とおの娘などに色文いろぶみをつけるわけはない
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その次に呼出したのは和助の女房のお咲、これは和助より三つ四つ年上なのと、すっかり世帯崩れの女房振りで、亭主とは十歳とおぐらい違いそうに見えます。