はさ)” の例文
村には理髮店といふものも無い時でしたから、兄貴が襷掛で、掛る布も風呂敷か何かで間に合せて、銀さんの髮を短くはさみました。
後園の花二枝三枝はさんで床の眺めにせんと、境内彼方此方逍遥されし朗圓上人、木蘭色もくらんじきの無垢を着て左の手に女郎花桔梗、右の手に朱塗しゆの把りの鋏持たせられしまゝ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
杉籬のはさみすてが焚附たきつけになり、落葉の掃き寄せが腐って肥料になるも、皆時の賜物たまものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
アポロ怒ってミの耳を驢の耳にし、ミこれをじて常に高帽で隠しその一僕のみ主人の髪をはさむ折その驢耳なるを知った。由ってその由人に洩らすまじと慎んでもこらえ切れず。
『もしもこの小馬がわしのものだったら、第一にわしはその翼をはさんでしまうね!』
実家さとよりも、飯田町いいだまち伯母おばよりすらも、はがき一枚来ぬことの何となく気にかかり、今しも日ながの手すさびに山百合を生くとて下葉したばはさみおれる浪子は、水さし持ちて入り来たりしうばのいくに
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ここに居て遊ぶ小児等こどもら、わが知りたるは絶えてあらず。風俗もまたかわりて見ゆ。わが遊びし頃は、うつくしく天窓あたまそりたるか、さらぬは切禿きりかむろにして皆いたるに、今はことごとく皆毬栗いがぐりに短くはさみたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熱心にぱちんぱちんとはさみ取ってくれている。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
阿父おとっさん書家しょか樵石しょうせき先生だけに、土肥君も子供の時から手跡しゅせき見事に、よく学校の先生にめられるのと、阿父が使いふるしの払子ほっすの毛先をはさみ切った様な大文字筆を持って居たのを
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それ手を取れ足を持ち上げよと多勢おおぜい口々に罵り騒ぐところへ、後園の花二枝にし三枝はさんで床の眺めにせんと、境内けいだいあちこち逍遙しょうようされし朗円上人、木蘭色もくらんじき無垢むくを着て左の手に女郎花おみなえし桔梗ききょう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)