切支丹キリシタン)” の例文
島原の切支丹キリシタン浪人が天草四郎を担ぎあげて天人に仕立てたとき、アワビの中からクルスが現れたなどと奇蹟をセンデンしたというし
昔でいうと、儒者じゅしゃの家へ切支丹キリシタンにおいを持ち込むように、私の持って帰るものは父とも母とも調和しなかった。無論私はそれを隠していた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この切支丹キリシタン文化の花園に教育された小ましゃくれた美少年を見ながら、その親の伊東義益という男の、我武者がむしゃ髯面ひげづらを聯想したからである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヨワンえのき伴天連バテレンヨワン・バッティスタ・シロオテの墓標である。切支丹キリシタン屋敷の裏門をくぐってすぐ右手にそれがあった。
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは恐らく、我が国に於ける切支丹キリシタンの迫害史が、世界に類なきものであったように、全く外国に珍らしい歴史であった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
丸山まるやま連さ。」と孫四郎は「いわずと知れた」といわぬばかり、「おいやなこともなかろう、切支丹キリシタンじゃなし。なア?」
「へえ。それはこう読みますんだそうで……残る怨み、白くれないの花ざかり、あまたの人を切支丹キリシタン寺……とナ……」
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それうてさへ、御時節ごじせつ有難ありがたさに、切支丹キリシタン間違まちがへられぬがつけものゝところぢや。あれが生身いきみをんなうて、わしもチヨンられずにんだでがす……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これを見たものはびっくりして、これは必ず切支丹キリシタンに相違ないと言って、皆大いに恐懼おそれいだいたとの話もある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
切支丹キリシタン問題、外国との通商問題、その他法制、経済、教化などに腐心してゐたが、彼等は幕府の政権の永続化を図る以外、何等高遠の理想を持つてゐなかつた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「世の縄墨じょうぼくそむいたが最後、それ異端者だ、切支丹キリシタンだ、やれ謀反人むほんにんだと大騒ぎをする」「うん、こいつはもっともだ」「今の浮世の有様は、太平無事でおめでたい」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よくは知らないが切支丹キリシタンの聖書というのをのぞいてみても、道徳律以外は奇蹟と安心立命の保証に充満している、詰り現実の汚穢おわいと苦悩と悪徳、それに死の恐怖というもの
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
徳川時代における切支丹キリシタンの活動は別として、明治維新後キリスト教が日本に伝道されてから八十年であるが、この間キリスト教の伝道は、見方によっては相当成功したとも言えるし
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
ずっと後にかの地における切支丹キリシタン迫害の歴史を読んで以来はこの貝の吸物が切支丹と一緒に思い出されるのも不思議であるが、要するにどちらも私にはかなりに官能的なものである。
二つの正月 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ひいじいさんかが、切支丹キリシタンの邪宗に帰依きえしていたことがあって、古めかしい横文字の書物や、マリヤさまの像や、基督キリストさまのはりつけの絵などが、葛籠つづらの底に一杯しまってあるのですが
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さすがに貴様は眼が高い。蛇の祟りなんぞはどうもに受けられねえ。ひょっとすると切支丹キリシタンだ。奴らがなにか邪法を行なうのかも知れねえから、そこへ見当をつけて詮索せんさくしてみろ」
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この村は三百年来の切支丹キリシタンがたくさん隠れて住んでいたへき村である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「如何にも切支丹キリシタンらしい名前ばかりですね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
傳へ聞く切支丹キリシタンいにしへなやみもかくや——
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
切支丹キリシタンばてれんの術をも学んだものか!
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
日本へ来た切支丹キリシタンの張本人ザビエルの属するゼスス会が、ロヨラやザビエルらの結成当初、宗教兵士を自任していたものです。
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あるいは多分、もっと確実な推測として、切支丹キリシタン宗徒の隠れた集合的部落であったのだろう。しかし宇宙の間には、人間の知らない数々の秘密がある。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
天台寺の住寺とはいつはり。まことは切支丹キリシタン婆天蓮バテレンともがらと思ひしが、それもいつはり。そのまことは、かゝる山中に潜み隠れ居る山賊夜盗の首領なりしかと今更に肝を消しつ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その理、測るべからず。ひそかに西洋に往来することを知って、かれはばかるものは切支丹キリシタンだとささやいた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
訓示は主として彼らがシナ人や琉球人りゅうきゅうじんの船に妨害を加えてはならないこと、オランダ船にはホルトガル人および切支丹キリシタン僧侶そうりょは一人たりとも載せて来てはならないこと
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ばてれん」とは教父、宣教師のことであり、「いるまん」とは法の兄弟きょうだいすなわち準宣教師のことであり、「立ちかえり者」とはいったん宗門をころんで再び切支丹キリシタンに帰った者のことである。
切支丹キリシタンの秘法だそうな」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのとき人々がクルス(十字架)をかゞげて野山をはせめぐり切支丹キリシタンの世となるであらう、といふ意味のことが書いてある。
わが血を追ふ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
三代目あたりからそろそろくずれ出すのではないかという諸侯の肝を冷やすために、また自分自らも内心実はその危険を少なからず感じていたところから、さしあたり切支丹キリシタン槍玉やりだまにあげて
いづれにしても禁断の邪教、切支丹キリシタン婆天蓮バテレンともがらに相違あるまじと云ひ放つ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いったい、切支丹キリシタン宗は神奈川条約ではどういうことになりましょう。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私が切支丹キリシタンの文献が手にはいらなくて困つてゐるとき、彼に会つてその話をすると、その文献ならなんとか教会にあつて
足のない男と首のない男 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
元和寛永のころというと、今から三百二三十年前のことだが、切支丹キリシタンが迫害されておびたゞしい殉教者があったものだ。
切支丹キリシタンの文献は、資料が日本側と外国側と二種類あり、日本側の日付は太陰暦であるが、西洋側は太陽暦なのである。
月日の話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一揆いっきの内部のことには知識がなく、外部の日本人は特に切支丹キリシタン宗門の内情に不案内であるし、外国人も間接的な風聞ふうぶんを書きとめている程度にすぎない。
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして一部の人々が信じていることは、千頭家は決して高貴というのではないが、実は切支丹キリシタンの残党である、と。
私も四五年前、切支丹キリシタンのことを調べに五島へ旅行した。長崎から船で相当ありますよ。第一、私の歩いたところは、旅館などというものすらも、一軒もなかった。
モンアサクサ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
籠城兵士の筆ではなくとも、一揆に同情しながら加担しなかつた村民や切支丹キリシタンの遺した記録はないか。
島原一揆異聞 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
信長がひところ切支丹キリシタンの最大の保護者であったことは人に知られているが、晩年に於て切支丹の敵となり、外国宣教師の呪いをうけていることは案外知られていない。
明日は天気になれ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
近代では徳川家康の侍女で朝鮮貴族出身のジュリヤおたアという切支丹キリシタン信徒の女性が家康の側女そばめになることを拒否して大島へ流され、これも島民に影響を残している。
もとめた本の多くは切支丹キリシタン関係のもので、書名をきいてみると、あきらかに矢島の蔵書に相違なかった。
アンゴウ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
血をくゞつて伝承した切支丹キリシタンの子孫が、今もこの島に住み、すなどり、さゝやかな山峡の畑を耕してゐる。三百年前の十字架が、サンタマリヤが、教会の壇に飾られてゐた。
波子 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
御記憶かと思いますが、昨年十二月十六日、茗荷谷みょうがだに切支丹キリシタン坂に幸三と申す若者がノド笛を噛みきられ、腹をさかれ臓物をかきまわされて無残な死体となっておりました。
だから、今の村民は、まつたく切支丹キリシタンに縁がない。移住者達は三万七千の霊を怖れ、その原形をくづすことを慎んだのかも知れぬ。原形のまゝ、畑になつてゐるのである。
島原の乱雑記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
パヂェスの「日本切支丹キリシタン宗門史」だとか「鮮血遺書」のやうなものを読んでゐると、切支丹の夥しい殉教に感動せざるを得ないけれども、又、他面に、何か濁つたものを感じ
文学と国民生活 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ジュリヤおたあといふ朝鮮人の侍女にも惚れたが、之は切支丹キリシタンで妾にならぬから、島流しにした。伊豆大島、波浮はぶの近くのオタイネ明神といふのがこの侍女の碑であると云ふ。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ジュリヤおたあといふ朝鮮人の侍女にも惚れたが、之は切支丹キリシタンで妾にならぬから、島流しにした。伊豆大島、波浮はぶの近くのオタイネ明神といふのがこの侍女の碑であると云ふ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
降参した老蝮は、さっそく信長を訪問して、京都の治安はこうされたらよろしかろう、などゝ色々献策した、が切支丹キリシタンの弾圧は必要大切でござるなどと云ってバテレンどもを怒らせた。
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
切支丹キリシタンを利用するコンタンに於ても、二人は同じように見透しをあやまった。
仏僧の切支丹キリシタン転宗は相継いでかなりあつたが、その者は禅僧であつたといふ。