佇立たゝず)” の例文
敬之進は顔をしかめた。入口の庭の薄暗いところに佇立たゝずんで居る省吾を炉辺ろばたまで連れて来て、つく/″\其可憐な様子をながなが
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
西八條より還御せられたる中宮の御輿おんこし、今しも宮門を入りしを見、と本意なげに跡見送りて門前に佇立たゝずみける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
毎夜まいよ吾妻橋あづまばしはしだもとに佇立たゝずみ、徃来ゆきゝひとそでいてあそびをすゝめるやみをんなは、梅雨つゆもあけて、あたりがいよ/\なつらしくなるにつれて、次第しだいおほくなり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
かれ自身じしんなが門外もんぐわい佇立たゝずむべき運命うんめいをもつてうまれてたものらしかつた。それ是非ぜひもなかつた。けれども、うせとほれないもんなら、わざ/\其所そこまで辿たどくのが矛盾むじゆんであつた。かれうしろかへりみた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其方そなたながめて佇立たゝずめば、かぜたはる朗詠らうえいこゑいとゞゆかしさのかずへぬ糸子いとこ果敢はかなきものとおもてゝ、さかりのべに白粉おしろいよそほはず、金釵きんさ綾羅りようらなんのためかざり、らぬことぞとかへりみもせず
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
矢張同じやうにしてそこに佇立たゝずんでゐるかがわからなかつた。
草みち (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
やがて聴衆は珠数をげて帰つて行つた。奥様も、お志保も、今は座を離れて、円柱の側に佇立たゝずみ乍ら、人々に挨拶したり見送つたりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
既にを消し、戸をとざしたる商店の物陰に人佇立たゝずめば、よし盗人ぬすびとの疑ひは起さずとも、何者の何事をなせるやとて窺ひ知らんとし、横町よこちやうの曲り角に制服いかめしき巡査の立つを見れば
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
蓮太郎の遺骨を載せた橇を先頭はなに、三台の橇曳は一旦入れた力をた緩めて、手持無沙汰にそこへ佇立たゝずんだのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
二人は互にアラと言つたなり驚いて其場に佇立たゝずんだ。
男ごゝろ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
軟かな五月の空氣の中で、しばらく私は町の角に佇立たゝずんで、暮れ行く空を眺めて居りました。