仮寝うたたね)” の例文
旧字:假寢
盧生が邯鄲かんたんというところで仙翁から枕を借りて仮寝うたたねすると、黄梁こうりょうの飯の出来上るまでに五十年の栄華の夢を見たという話でございます。
夜半に燈下に坐して、んで仮寝うたたねをしていると、恍惚のうちに白衣の女があらわれて、はりでそのひたいを刺すと見て、おどろき醒めた。
私はややともすると机にもたれて仮寝うたたねをした。時にはわざわざまくらさえ出して本式に昼寝をむさぼる事もあった。眼が覚めると、せみの声を聞いた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大欠伸おおあくびと一緒に身を起した藤吉、仮寝うたたねしていたにしては、眼の光が強過ぎた。胡坐あぐらを揺るがせながら、縷々るるとして始める。
昼の疲もあり、蒸々する晩でもあり、不寝番の控室てはとろとろと仮寝うたたねの鼾も出ようと云ふ真夜中に、けたゝましいもの音、やにはに飛出した囚人。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「寒いおもいをしてはいけないいけないッて言っても、仮寝うたたねなぞしているもんだから……風邪かぜを引いちゃったんさ……」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
『類函』四三八に、王趙かたへ一僧来り食を乞い、食おわって仮寝うたたねする鼾声夥しきをいぶかり、王出て見れば竜睡りいた。
ほど経て白糸は目覚めざましぬ。この空小屋あきごやのうちに仮寝うたたねせし渠のふところには、欣弥が半年の学資をおさめたるなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに三人とも激しい不眠症に襲われた。その中でも、神経質の康頼がいちばんひどかった。彼は、夜中眠られない癖がついてしまったので、昼間よく仮寝うたたねをする。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一寸した仮寝うたたねにも直ぐ夢を御覧なさる位ですから、それは夢の多い睡眠ねむりに長い冬の夜を御明しなさるので、朝になっても又たくそれを忘れないで御話しなさるのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
翌暁あくるあさ小樽に着く迄は、腰下す席もない混雑で、私は一夜ひとばん車室の隅に立ち明した。小樽で下車して、姉の家で朝飯をしたため、三時間許りも仮寝うたたねをしてからまた車中の人となつた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かくて妾は爆発物の原料たる薬品悉皆しっかいを磯山の手より受け取り、支那鞄しなかばんに入れて普通の手荷物の如くに装い、始終かたわらに置きて、ある時はこれを枕に、仮寝うたたねの夢をむさぼりたりしが
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
よごれものがたまって新らしい茶碗の縁が三日と無疵むきずで居たためしがないとなあ、三十九にもなって何てこったし、あまり昼、夫婦づれで、仮寝うたたねばかりしているからだなっし、貴方。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
島は、うき島、八十やそ島。浜は、長浜ながはま。浦は、おうの浦、和歌の浦。寺は、壺坂、笠置、法輪。森は、しのびの森、仮寝うたたねの森、立聞たちぎきの森。関は、なこそ、白川。古典ではないが、着物の名称など。
古典竜頭蛇尾 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……醒めて口惜しき仮寝うたたねの、か、ああ、詰らん詰らん。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
仮寝うたたねをするとか、なんぞと言っては、どやしつけられるのがつらさに、ある時などは、村のみちに通りかかった旅商人らしい男にすがって、どこへでもいい
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
筆をるときも、頬杖ほおづえを突くときも、仮寝うたたねの頭を机に支うるときも——絶えず見下している。欽吾がいない時ですら、画布カンヴァスの人は、常に書斎を見下している。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五更ごこう(午前三時—五時)に至るまで寂然せきぜんとして物音もきこえないので、守る者も油断して仮寝うたたねをしていると、たちまち何物かはいって来たらしいので驚いて眼をさますと
どうかすると、その暖い色が彼女の仮寝うたたねしている畳の上まで来ていることも有った。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人は途々夜のけた昨夕ゆうべの話をした。仮寝うたたねをして突ッ伏していたお時の様子などがお延の口に上った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やはり囲炉裏のそばに胡坐をかいていた。みんな寝着いてから、自分もその場へ仮寝うたたねをした。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして格子こうしを開ける先生をほとんど出合であがしらに迎えた。私は取り残されながら、あとから奥さんにいて行った。下女げじょだけは仮寝うたたねでもしていたとみえて、ついに出て来なかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)