下痢げり)” の例文
赤児あかごを牛乳で育てる人は少し胃腸が悪くなると、オヤオヤこの子が下痢げりするよ、きっと牛乳屋で青草ばかり牛に食べさせるからだろう
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「そうでしょう——金貨をせんじたって下痢げりはとまらないでしょう。——だから御医者に頭を下げる。その代り御医者は——金に頭を下げる」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「腹のくすりだそうで。毎日、田螺は喰べることにしています。生れつきか、ややともすると、すぐ下痢げりをやりますので」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は当時僕の弟の転地先の宿屋の二階に大腸加答児だいちょうかたるを起して横になっていた。下痢げりは一週間たってもとまる気色けしきは無い。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
平次は首をひねりました。曲者は酒を呑まない二人を遠ざけるために、安倍川へ大黄を混入して、下痢げりを催さしたと考えられないこともありません。
飲料いんりょうには屹度きっと湯をくれと云う。曾て昆布こんぶの出しがらをやったら、次ぎに来た時、あんな物をくれるから、醤油しょうゆを損した上に下痢げりまでした、といかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
悟浄が仕えてからちょうど九十日めの朝、数日間続いた猛烈な腹痛と下痢げりののちに、この老隠者いんじゃは、ついにたおれた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
やたらに水を飲んだもので、とうとう翌日に下痢げりで苦しんだよ、それ故まあ、一時はおどかしてやったものの矢張やはり私の方が結句けっく負けたのかも知れないね。
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「どうも、下痢げりばかりしちやつて、あまり工合もよくないしね、それに、ダラットの文明も恋しかつたンだ。富岡さんが戻つてるとは思はなかつた……」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
先生は汚らしい桶のふたを静に取って、下痢げりした人糞のような色を呈した海鼠なまこはらわたをば、杉箸すぎばしの先ですくい上げると長く糸のようにつながって、なかなか切れないのを
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
毎日二三回ずつの下痢げり、胃はつねに激しきかわきを覚えた。動かずにじっとしていれば、健康の人といくらも変わらぬほどに気分がよいが、労働すれば、すぐ疲れて力がなくなる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
下痢げりと腹痛、たぶん、水風呂のたたりだろう。夏の悪熱は、私からあらゆる力をはぎ、ものうさと、とがった感情だけを残す。私はうつうつしつつ原子バクダンのバクハツばかり考えている。
そして急激な嘔吐おうと下痢げりだ。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夏は木綿もめんを腹へ巻き冬はフランネルを腹へ巻いて寝るのが一番です。睡眠中に腹を冷すと胃や腸を害して急性の下痢げりを起します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ふた晩も、伊吹山の谷間の湿地にかくれて、生栗なまぐりだの草だのを喰べていたため、武蔵は腹をいたくしたし、又八もひどい下痢げりをおこしてしまった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食糧しょくりょう風呂敷包ふろしきづつみにして、千円の金を持って千穂子は産院に戻って来たが、赤ん坊はひどい下痢げりをしていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
へどをいたり下痢げりをしたりする不風流な往生わうじやうやである。シヨウペンハウエルがコレラをこはがつて、逃げて歩いたことを読んだ時は、甚だ彼に同情した。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
天麩羅てんぷらを食えば必ず下痢げりする事になる。月給をもらえば必ず出勤する事になる。書物を読めば必ずえらくなる事になる。必ずそうなっては少し困る人が出来てくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文字を覚えて以来、せきが出始めたという者、くしゃみが出るようになって困るという者、しゃっくりが度々出るようになった者、下痢げりするようになった者なども、かなりの数に上る。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
産褥中さんじょくちゅうの母親が少しでも悪い物を食べると当人には何の影響がなくっても小児がたちま下痢げり便秘べんぴを起すようなものでよほど注意しなければなりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
下痢げり止めの六和湯りくわとうせんじるやらかゆを煮るやらで、同囚のたれ一人、宋江の日頃の徳を、ここでむくわない者はない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三四郎は下痢げりのためばかりとは思わなかった。けれども大いに疲れた顔を標榜ひょうぼうするほど、人生観のハイカラでもなかった。それでこの会話はそれぎり発展しずに済んだ。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜更けてから、富岡は、猛烈な下痢げりをした。息苦しいかはやに蹲踞み、富岡は、両のてのひらに、がくりと顔を埋めて、子供のやうに、をえつしていた。人間はいつたい何であらうか。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
一体下痢げりをする度に大きい蘇鉄そてつを思ひ出すのは僕一人ひとりに限つてゐるのかしら?
囈語 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春から夏のクリームが黄色を帯びるのはそれがためですけれどもこういう牛乳を小児に与えるのははなはだ危険で、小児はそれがために胃腸を害して下痢げりを起します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
尾籠びろうでござるが、十郎左は、下痢げり気味なのでござる。両三日、我慢いたしておりますが、お手当を」
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下痢げりの気味でいつもの通り診察場に出られなかった医者に、代理を頼まれた彼の友人は、午前の都合を付けてくれただけで、午後から夜へかけての時間には、もう顔を出さなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甚だ尾籠びろうなお話ですが、第一下痢げりをする時には何だかさめの卵か何かを生み落してゐるやうに感ずるのです。それだけでももうがつかりします。おまけに胃袋までくぢらのやうに時々潮をき出すのです。
無題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『その磯貝からは、言伝てを頼まれた。西瓜を喰うててられたとか、下痢げりいたして、昨日から寝ておる。助右すけえは、旅立ちじゃ、両名とも、よろしくと云う事だった』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
散々手数をかけてもよく消化し尽せないから沢山牛乳をガブ飲みにすると下痢げりを起す。それを体外で少し手数をかけて何か料理に交ぜて使えば胃腸はそれだけの手数を免れるでないか。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
甲軍の一将、諸角豊後守は、前の日から下痢げりを起していた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)