一昨日おとつい)” の例文
一昨日おとついばんよいの口に、その松のうらおもてに、ちらちらともしびえたのを、海浜かいひんの別荘で花火をくのだといい、いや狐火きつねびだともいった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは殿様がお隠れになった当日から一昨日おとついまでに殉死した家臣が十余人あって、中にも一昨日は八人一時に切腹し、昨日きのうも一人切腹したので
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つまりそうした好奇心の一番強い真盛りの娘ッ子で、やっと一昨日おとつい来たばっかりのところへ、先輩のヨネ子からこの話を散々聞かされた訳だね。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まア是だけの金子を集めて、是を資本もとで追々おい/\と再建に取掛るつもりでわざ/\源兵衞さんが一昨日おとつい持って来たに依って
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「すると、この辺は一昨日おとつい、浮田方と東軍の福島と、小早川の軍と敵の井伊や本多勢と、乱軍になって戦った跡だ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれはきっと一昨日おとついのことでございましたろう、確かにそうです。アレクセイ・セミョーヌイチがお伺いしたので。やはりわっしどもの事務所に勤めていますんで」
一昨日おとつい昇に誘引さそわれた時既にキッパリことわッて行かぬと決心したからは、人が騒ごうが騒ぐまいが隣家となり疝気せんき関繋かけかまいのないはなし、ズット澄していられそうなもののさて居られぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一昨日おとついの事なりし、僕かの荘官が家のほとりよぎりしに、納屋なやおぼしかたに当りて、鶏の鳴く声す。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「今日も昨日も一昨日おとついも、もうかれこれ十日余りも、お邸方へ参上致し、さまざまご贔負ひいきにあずかりましたが、この布ばかりは買っていただけず、一巻ひとまきだけ残りましてございます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一昨日おとついの晩は越前屋の帰り、柳原でいきなり暗闇から白刃しらはで突っかけられ、跣足はだしになって逃げ出したし、ゆうべは家へ押込みが入って、すんでの事に寝首を掻かれるところだったし
「いいえ、」と婢は微笑んで、「奥様なんでしょう。一昨日おとつい御出になりました。」
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一昨日おとついは、一字の男総出で、隣村の北沢から切組きりくみ舞台ぶたいを荷車で挽いて来た。昨日は終日舞台かけで、村で唯一人ただひとりの大工は先月来仕かけて居る彼が家の仕事をやすんで舞台や桟敷さじきをかけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ちょび髭が月手当をあげると云った、それだけあれば夫婦二人のくらしは立つと思ったんで、箱根から呼び戻したんだ、一昨日おとつい返事があって、今日の夕方にはこっちへ着いている筈なんだ」
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「坊さんは来なくなった。昨日も来なかった。一昨日おとついも来なかった。」
(新字新仮名) / 小川未明(著)
大王殿下の疑念ようやくく 席定まって総理殿下は「一昨日おとつい話して置いた件について、あなたが秘密に私に対し最も言おうとして居るところの用件は何であるか」と尋ねましたら「私は秘密は持ちませぬ。しかし最も言わんと願うところの要件は、殿下の御親切なる取扱いによってチベット法王に私の上書じょうしょを ...
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大抵腹を立てるような事はあるまいと、純一の推測していた瀬戸が、一昨日おとつい谷中の借家へにこにこして来て、今夜亀清楼かめせいろうである同県人の忘年会に出ろと勧めたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「私が一昨日おとついから風邪を引きまして、納屋なやに寝残っておりますと、昨日きのうの晩方の事です。あのかねの野郎が仕事を早仕舞はやじまいにして帰って来て『工合はどうだ』ときました」
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その癖朝の内からあお玻璃ビイドロ見たような晴天で、昨日きのう一昨日おとついも、総六が崖の上から、十国峠の上に三日続けて見ましたという、つくね芋の形をした重い雲が影もないので
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が一体うしたら食えるんだ? 東京、横浜、そして神戸——それから一昨日おとついこの町へ来たんだが、どこの工場こうばでもお断りだ。実は今人減しの最中なんでね……何処も彼処かしこも同じご托宣だ。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一昨日おとついの大夕立の真最中、往来には入っ子一人居ず、家と言う家は、雨戸も窓も皆んな閉め切っている時、自分の家の物干から屋根へ飛降り、踊り舞台の足場を渡って、此路地へ飛込み
左様そうだがね、わしイ三十の時から此家こっちへ奉公して、六年ぜんに近所へ世帯しょたいを持ったのだが、せわしねえ時ア斯うして毎度めいど手伝に来るのさ、一昨日おとついおせゆッ塩梅あんべいがわりいって城堀しろほりけえったから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ハイ一昨日おとついの晩いいました」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おおその事でございますか。いかにもあなた様のおっしゃる通り、つい一昨日おとついまでは苗木城の客分の身分でございましたなれど、仔細あって城を出たからは元通りの雲助にござります」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「……ほかでもないがなあ猪口兵衛どん。あの博多一番の分限者の一人娘で、蔵元屋のお熊さんチュウテなあ。十八か九の別嬪が、一昨日おとついの朝早よう、万延寺の菩提所で、胴中から真二つに斬られとった騒動なあ……最早、聞いておんなさるじゃろう」
ところが一昨日おとついの晩のことだ。浅草観音の境内へ行き、偶然窩人達の話を聞いた。毒蛇を盗まれたと云っていた。はてなと俺は考えた。考えながら根岸へ行った。と、白粉が引かれてあった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「日柄のことではございませんかな。たしか一昨日おとついが丙の日で」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)