一抱ひとかかえ)” の例文
すると少佐はジープの中へ上半身じょうはんしんをさし入れて、ごそごそやっていたが、やがて中から一抱ひとかかえある布ぎれ細工のものをとりだした。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お兼は立去りあえずかしらを垂れたが、つと擬宝珠ぎぼうしのついた、一抱ひとかかえに余る古びた橋の欄干に目をつけて、嫣然えんぜんとして、振返って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一抱ひとかかえもある松ばかりがはるかむこうまで並んでいる下を、長方形の石で敷きつめた間から、短い草が物寂ものさびて生えている。靴の底が石に落ちて一歩ごとに鳴った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪が十分深く積ると、夏の間は足も入れられないような山奥までも馬橇が通うようになって、一抱ひとかかえも二抱もある材木が、案外容易に運び出されるようになるのである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
たけなす茅萱ちがやなかばから、およ一抱ひとかかえずつ、さっくと切れて、なびき伏して、隠れた土が歩一歩ほいっぽ飛々とびとびあらわれて、五尺三尺一尺ずつ、前途ゆくてかれを導くのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ますだけというのは広葢ひろぶたほどの大きさで、切って味噌汁みそしるの中へ入れて煮るとまるで蒲鉾かまぼこのようだとか、月見茸つきみだけというのは一抱ひとかかえもあるけれども、これは残念だが食えないとか
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おお、そうだったか」と云いながら、はなはだ面倒そうに洋服を脱ぎえて、いつもの通り火鉢ひばちの前に坐った。御米は襯衣シャツ洋袴ズボン靴足袋くつたび一抱ひとかかえにして六畳へ這入はいった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小形の牛だと言ふから、近頃青島せいとうから渡来とらいして荷車にぐるまいて働くのを、山の手でよく見掛ける、あの若僧わかぞうぐらゐなのだと思へばい。……荷鞍にぐらにどろんとしたおけの、一抱ひとかかえほどなのをつけて居る。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一抱ひとかかえ二抱ふたかかえもある大木の枝も幹もすさまじい音を立てて、一度に風から痛振いたぶられるので、その動揺が根に伝わって、彼らの踏んでいる地面が、地震の時のようにぐらぐらしたと云うのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柳は早うしろのかたはるかになりて、うすき霧のなかに灰色になりたる、ほのかに見ゆ。松の姿の丈高きが、一抱ひとかかえの幹に月を隠して、途上六尺、くま暗く、枝しげき間より、長き橋の欄干低く眺めらる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桑があんなに大きくなってますと番頭がゆびさした。なるほど一抱ひとかかえもある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて一抱ひとかかえもあろう……頭と尾ごと、丸漬まるづけにした膃肭臍おっとせいを三頭。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)