赭土しゃど)” の例文
少年の家の前を横ぎつて、淡水河に出る広い道路があり、それを西に暫く行くと、水田を越えて、赭土しゃど色ににごつた小判形の大きな沼があつた。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「そほ」は赭土しゃどから取った塗料で、赭土といっても、赤土、鉄分を含んだ泥土、粗製の朱等いろいろであった。その精品を真朱まそほといって、「仏つくる真朱まそほ足らずは」(巻十六・三八四一)の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
少年は母に手を引かれて、そのあとからついて行きながら、その父の靴の裏が、乾いた赭土しゃど色をしてゐるのに気づいた。妙にあざやかな印象だつた。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
岬や海や、赭土しゃど切崖きりぎしや旅館の窓や、そして船までもがみんな睡つたやうに静まり返つてゐるあの温泉町。私の病身も半年ものあひだ養つてくれたあの温泉町。
恢復期 (新字旧仮名) / 神西清(著)
喚声がみるみる頭の上の方へ遠のいて、赭土しゃど色の水が、のしあがるやうに迫つてくる。さうなるともう、加速度で足がとまらない。今にもう、どぶんとあの沼にはまりこむほかはないと思ふ。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)