花香くわかう)” の例文
月正に五月に入つて旬日を経たる頃なり。もし花卉くわきを愛する人のたま/\わが廃宅に訪来とひきたることあらんか、蝶影てふえい片々たる閑庭異様なる花香くわかうの脉々として漂へるを知るべし。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
此等の香氣は、明らかに動物の生殖慾の亢昂時に成り立つところの麝香や麞香や、植物の交精時に發する薇薔花香、百合花香、菫々菜すみれ花香くわかう、ヘリオトロープ花香、茉莉ジヤスミン花香くわかう等とは異なつたものである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
こゝろみに菩提樹の花を見てよく北欧の牧野田家ぼくやでんかの光景を想像し、橄欖樹の花に南欧海岸の風光を思ひ、リラの花香くわかう巴里パリー庭園の美を眼前に彷彿たらしむることを得べしとせんか。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)