耳朶みみ)” の例文
三成の耳朶みみは、紅かった。——刑部は自分のほうへ、彼がズズと畳をずる音をさせて来たので、ハッと肩を持ち直した。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒い房々とした髪の間から白い耳朶みみが覗いていた。小さな薄い耳朶みみであった。灯火に透したら一々血管がすいて見えそうな柔かい赤みを帯びた肉片であった。
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
雪之丞が、さも、悲哀に充ちた調子で、そう言って、うなだれてしまうと、火のように熱い息が、彼の耳朶みみにふれて、そして、驚くべき囁きが、聴かれるのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そう云って此度は、彼女は媚びるようなしなをしながら、首をかしげてみせた。白い耳朶みみが彼女の細りしたうなじの上に、山田の心を唆った。山田は急に顔を外らした。
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
門口を押し開いてはいってゆく秀子の耳朶みみがまた、山田の眼の中に刻まれた。山田はぼんやりして足を返した。と急に、自分のうちの何物かが彼女と共に奪い去られたような気がした。
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)