一度口に出して見た。をとゝひまで手写しとほした称讃浄土摂受経しようさんじやうどせふじゆきやうもんである。郎女は、昨日までは一度も、寺道場を覗いたこともなかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
その頃は、称讃浄土摂受経しようさんじやうどせふじゆきやうを千部写さうとの願をおこして居た時であつた。其がはかどらない。何時までも進まない。茫とした耳に、此世話よばなしが紛れ入つて来たのである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
横佩家の郎女いらつめが、称讃浄土摂受経しようさんじやうどせふじゆきやうを写しはじめたのも、其頃からであつた。父の心づくしの贈り物の中で、一番郎女の心を明るくしたのは、此新訳の阿弥陀経一巻いちくわんであつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)