眞面まとも)” の例文
新字:真面
その、或る程度のお覺悟——と云ふ、まるで鐵槌をいきなり眞面まともから打ち降されたやうな詞に、私の頭は混亂した。もう絶望だ——と、私は直ぐに考へてしまつたのだ。
疑惑 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
その祠の階段に腰を掛けると、此處よりは少し低目の、同じ形の西山に眞面まともに對合つた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
眞面まともにびしりと何かを叩きつけられたやうな氣持だつた。私は隣の部屋の方を振り向き、女の姿を見詰めながら、不安と、困惑と、羞恥と、疑惑の中に立ち迷つてしまつた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
頷いて、薄暗い明りの下ながら、私はその刹那に初めて女の顏を眞面まともに見詰めた。赤茶けた、つやのない、ばさばさ髪、高い頬骨、肩掛をはづした女の顏は見違へる程痩せてゐた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
如何にも物慣れた、形の好い恰好に踊り續けながら、時時眞面まともになる女の顏には、外の女達とは際立つて品の好い、が、同時に強く人の眼を奪ふやうな魅力のある笑ひが始終たたへられてゐた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)