ベシミ)” の例文
能楽の面に大癋オホベシミと言ふのがあるが、ベシミは「へしむ」といふ動詞から出た名詞で、口を拗り曲げてゐる様である。神が土地の精霊と問答する時、精霊は容易に口を開かない。
鬼の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
たつて物言ふまいとする精霊を表したのが「ベシミの面」である。此時が過ぎて精霊が開口しかけると、盛んに人の反対に出る。あまのじやくと称する伝説上の怪物が、其から出て居る。
われ/\の国の文学はいはひ詞以前は、口をとざして語らざるしゞまのあり様に這入る。此が猿楽其他の「ベシミの面」の由来である。其が一旦開口すると、止めどなく人に逆ふ饒舌の形が現れた。